瀬戸内

□君とバイクで
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かったるい授業が終わった。
なんだか一日が長かった気がする。
俺は政宗と軽く言葉を交わすと鞄をひっつかんで教室を出た。
普段は政宗と寄り道しながら帰るのだが、今日はバイクで来たのだ。
一人なのは少し寂しいが、楽でいい。

靴に履き替え外に出ると、知っている背中を見つけた。
口元が僅かに緩む。
元就だ。
俺は元就の背中に向かって叫んだ。

「元就ー、一緒に帰ろうぜぇ!!」

元就は顔だけちらっと俺の方に向けた。
此方を見るなり眉をひそめる。
そして、顔をふいっと戻すと、そのまま素知らぬ顔で歩きだした。
俺はそんな元就を追いかけて隣に並ぶ。

「何故我が貴様と帰らねばならんのだ」

元就はあくまでも正面を向いている。
喋ってる時くらい目を合わせてくれてもいいのにと思う。

「細かいことは気にすんなって。今日バイクだから乗せてってやるよ!」

その言葉に元就は少し考え込んだ。
その動作に俺の方が少し驚く。
ダメ元で言ってみたからだ。
何事も言ってみるもんだと思った。

「………よかろう」

あの元就が一緒に帰ってもいいと言うなんて奇跡…もしくは夢だ。
まぁ、いいと言われなくても一緒に帰るつもりだったが。
改めて言われると少し照れる。

たわいのない話しをしながら駐輪場まで歩いて行った。
と言ってもほぼ俺が話しているだけだが。
バイクに鞄を押し込むとヘルメットをつける。
元就にももう一つをほいっと投げると、つけたのを確認して先にバイクに跨った。
それに続き、元就も跨る。

俺の肩に手が置かれる。
俺はくるりと振り返ると元就の手を持って「こっち!」と言いながら、自らの腰に回させた。
最初は文句を言っていた元就だが、やがて諦めたようだ。

元就の手に力が籠もった。
背中越しに元就の温もりが伝わってくる。
と同時に、俺の手にも力が籠もる。
これは緊張からくるものだ。

「行くぜ!!しっかり捕まってろよ!!」

出発してからどんどんスピードを上げていく。
と言っても、規則は守っている。

「っ貴様、スピードの出しすぎだ!!」

走っているため普段より大きい声で元就が叫んだ。
バイクに慣れていない元就には速く感じるのだろう。

落ちないようにと元就の手に更に力が入った。
そうなると自然と密着もするわけで。
先程よりもずっと温かい。

「そんなことねぇよ!!」

俺も叫び返す。
この鼓動が元就に聞こえてないだろうか。
俺の心臓が元就の家まで保つか心配になった。



「…元就…好きだ…」

言ってからしまったと思った。
思わず声に出してしまったからだ。
身体が強ばる。

「何か言ったか!?」

風が強かったせいか、小さな呟きだったせいか、どうやら元就には届いていなかったようだ。

俺はほっと一息吐くと肩の力を抜いた。

「…いや、何も言ってねぇぜ!」

そう言った口調は軽かった。
だが、顔は相当酷いものだったと思う。

言えるわけがない。
改めて自分が臆病者だと痛感する。
結局、昔から何も変わってはいない。




変わったのは元就に対する想いだけ…。











君とバイクで

(どうかこの胸の鼓動に気づいて)

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