瀬戸内

□譲れないもの
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ぽかぽかした春の陽気。
春風が心地よい。
目を瞑ればすぐにでも寝れそうな。
そんな中、俺と元就は二人して縁側に座っていた。
所謂、日向ぼっこと言うやつだ。

「元就、そいつは?」

俺がそいつと言ったのは、先ほどから元就の膝の上を陣取っている猫のことである。
白とも銀ともいえる色。
パサパサの毛並みはそれほどいいとはいえない。
気品とはほど遠いような。
けれど、どこかたくましくも見える。
どちらかというと頭をやっていそうな猫だった。

「あぁ…先ほどそこで拾ったのだ」

元就はその猫を撫でながら、庭を指差した。
猫を拾うなんて元就にしては珍しい。
ましてや、膝に乗せるなんて。
しかし、珍しいことはそれだけではなかった。

猫を撫でる手つきが普段の元就では考えられぬほど優しい。
それに、その猫を愛しそうなものを見るような眼差しで見ているのだ。

「ふーん」

些か返事がぶっきらぼうになってしまう。
面白くない。
俺以外が元就にあんな顔をさせていると思うと…。
猫に負けた気になる。

「元就」

そんなことを考えていたらいつの間にか元就の名前を呼んでいた。
少し素っ気なかったかもしれない。
俺としてはなんとなく。
本当になんとなく呼んだつもりだった。

「なんぞ?」

返事をしてくれたことから機嫌がいいことが伺える。
応えてはくれたが、元就は猫を見ていてこちらを見てはくれない。
何故だか何も言う気にはなれなかった。
実際、これと言った用はなかったのだけど。

「はぁ…何でもねぇ」

溜め息を吐いて言ったその言葉が不満だったのか、元就の眉間のしわが怪訝そうに寄った。

「言え。気になるではないか」

今度はしっかりと俺の方を見てくれた。
互いの目と目が合う。
こんな些細なことでさえ嬉しさを覚える。

「別に、何でもねぇよ」

逆に俺の方が気恥ずかしくなり目をふっと下にそらした。
自分でも矛盾しているとは思う。
そらした視線の先には猫がいた。
元就の膝の上で欠伸をしているその猫が恨めしい。

「我に隠し通せると思うてか?」

元就の言う通り、俺は元就に何かを隠し通せた試しがない。
性格柄なのか表情に出てしまうのだ。

「ぅ…」

「………」

元就は何も言わない。
ただ、元就のすっとした切れ目が俺を見つめる。
早く言えと、目で要求されているようだ。
元就に隠し事はできない。
それ以前にしたくないと思ったら、自然と口から言葉が出ていた。

「…っだから!!元就が猫ばっかり構ってるから…その…俺が退屈って言うか…」

俺は途中で口ごもってしまった。
これでは自分が猫に嫉妬しているみたいだと思ったのだ。
まぁ…あながち間違いではないのだろうが。
心の狭い奴とか思われたくないので、なるべくならそういうとこを見せたくもない。

が…

「やっぱ駄目だ!!」

俺は元就の膝の上からひょいと猫を掴むと下に降ろした。

「何をする!?」

と同時に…
元就の手を引っ張って自分の方へと引き寄せた。

「元就は俺だけ見てればいいんだよ!!」

その言葉に元就の頬が赤く染まっていく。
それを隠すように俺の胸に顔を埋めた。
こういう時の元就は可愛い。
いや…いつも可愛いけど。

「っ………似ていたのだ」

不意に元就が口を開いた。

「何が?」

「あの猫が……そなたに」

そう言われれば似てなくもないような気もする。
翌々考えてみれば、毛の色とかがなんとなく髪の色に。
それに、自分で言うのも難だが、あのふてぶてしいような態度はちょっとぽかった。

ってことは…
俺に似てたからあんな顔してたってことだよな?
そう考えると、嬉しすぎて顔がにやけてしまう。

「元就ー!!やっぱ俺、お前のこと大好きだぜ!!」

ぎゅっときつく抱きしめた。
元就は離せって怒ってたけど、あんな真っ赤な顔で言われても全然迫力がない。
むしろ、離したくなくなる。
まぁ、端っから離すつもりは全くないのだが。


俺は笑みをこぼしながら、こんな日向ぼっこも有りだなと、ぼんやり思った。












(元就は俺のだからな。例え俺に似てる猫にだって譲れねぇ)

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