学園

□空を仰いでも
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このところずっと雨が降り続いている。もう今日で4日目だ。

薄暗い天気と湿気は、やる気とか、元気だとかいうプラスのエネルギーを吸い取った。

学校に来るまでがダルい。授業がダルい。帰りもダルい。

ダルいのはいつものことだが、今はより一層やる気の無さが増していた。

「Shit!まだ雨は止まねーのか」

「…さっきより勢い増してんじゃねぇか」

俺と政宗は、窓の外を眺めていた。

さっき見た時は小降りになったと思ったのだが、雨は激しく窓を叩いている。

当分お天道様は拝めそうにない。

「梅雨って何でこんなにじめじめしてんだろうな」

「Ah?気温が高い上、雨が降るからだろ。そんなこと訊くな」

「そりゃそうだけどよ」

「小十郎がうるさくてしょうがねぇ」

政宗はそう言って頭を抱えた。

小十郎とは、政宗の兄的存在の人物らしい。

一度見たことがあるのだが、渋くて怖そうな顔つきの男だった。

あの顔を見れば、訪問販売とか、すぐ帰ってくれそうだ。


俺は政宗の家庭のことはよく知らないので何とも言えないが、何やら複雑なのは知っていた。


「アンタの兄さんがどうかしたのかよ」

「迷惑極まりないぜ」







梅雨の始まりを知らせる、最初の雨が降った日のことである。
その日は日曜日であった。

「小十郎、飯はまだか」

なかなか夕食ができないので、政宗が台所を覗くと、恐るべき光景が目に飛び込んできた。

「小十郎!」

なんと、鍋に砂糖を一袋ぶちまけていたのだ。

「…政宗様?」

「砂糖そんなに入れて、何作る気だ!?」

「!!無意識のうちにやってしまった…」

「カレー作ろうとしてたんじゃねーのかよ」

「畑の野菜が心配で…。雨の野郎、降り続いたら容赦しねぇ…」

「どう容赦しねぇんだよ」


結局夕食は政宗がちゃんとしたカレーを作った。

小十郎はというと、その後、茶碗を二つ割った。





次の日はこうだ。

「ただいまー…An?何か踏んだな」

政宗が学校から帰ると、廊下で何やら柔らかいものを踏んだ。

拾い上げてみると、てるてる坊主である。

リビングのドアを開けると、部屋は白で埋まっていた。


「お帰りなさいませ、政宗様」

「てるてる坊主こんなに作ってどーする気だ」

「何としても太陽に顔を出してもらわねばなりませんから」

「お前はいつから毛利になったんだ」

「政宗様も、吊すの手伝ってくださいませんか」

政宗のツッコミは無視された。

小十郎はてるてる坊主さえあれば晴れると本気て思っているのか、微かに笑顔だ。

「全部吊す気か?」

「もちろんです!」

「……」

政宗は、そんなことをしてもムダだと思いつつ、てるてる坊主を吊すのを手伝った。





そしてそのまた次の日。

政宗が学校へ行こうと二階にある自分の部屋から降りてきて、リビングに顔を出すと、テレビの前で正座している小十郎が目に入った。

小十郎は無言でテレビの画面を凝視している。

「Good morning、」

「おはようございます」

「……小十郎、」

「少し黙っていてくれませんか」

「An?」

小十郎は真剣そのものである。

何を見ているのかと思いテレビ画面を覗いてみると、ニュースが終わり、天気予報が始まるところだった。

「天気予報かよ…」

「これは重大なことなのです…!ですから黙って、」

そこまで言うと小十郎は口を止めた。

お天気お姉さんが話し始めたのだ。

緊迫した空気が辺りに張り詰める。



『それでは、明日の天気予報です』











『明日も全国的に雨となるでしょう』







「………」

「………」

小十郎は全く動かない。

「…天気予報なんてあてにすんな」

政宗が声を掛けても、小十郎はがっくりとうなだれたままだった。






「って感じだ」

「アンタの兄さん、可愛いところもあるんだな。もっと怖い人だと思ってたぜ」

そんなに野菜命だとは知らなかった。

「可愛いか?こっちは迷惑だ」

「…早く、雨止むといいな」

「全くだ」

俺達は空を眺めたが、止む気配は微塵も感じられなかった。

早く止んでくれと、祈ることしかできない。

何だかその虚しさが、気分をより一層沈ませただけだった。


(今日はどんなことになってんだろうな…)

政宗には悪いが、俺は政宗の兄さんが今日は何をやらかすのか、少し楽しみだった。
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