小説

□恋ならよかった!
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僕が自室でいつものように筆を走らせていると、いつものように慶次くんが訪ねて来た。

だから僕はいつものように帰れと言ったが、彼はいつものように一方的に話始めた。


最近は彼を追い返そうとする努力は、全くの無駄だと言うことが判明した。

上手く追い返せても、また次の日から毎日のようにやって来る。

だから彼の気が済むまで勝手に喋らせておいて、僕は適当にあいづちを打つことにしている。


しかし今日は、今すぐにでも帰ってほしかった。

どうも体調が優れないのだ。


「早く帰ってくれと言っているんだ」

「まぁまぁ、あとちょっと聞いてよ」


彼から帰る気なんて微塵も感じられない。


「胸が、痛むんだ。だから、」


僕の今の状態を伝えれば、さすがに帰ってくれるだろうと思い、体調が悪いことを伝えた。

しかしそれは間違いだった。


「胸が締め付けられるように?」

「そう、だから君の相手をしt「それって恋だよ!」


慶次くんは突然大声を出し、目を輝かせて僕を見る。

は…?何だって?


前から彼のことは馬鹿だと思っていたけど、本当に救いようが無い。


「え、ちが「好きな人の事を考えると胸がぎゅーって締め付けられるんだろ!?」


彼はすっかりテンションが上がってしまって、僕に否定する暇さえ与えてくれない。


「恋はいいもんだよ!!時には辛い時もあるかもしれないけどさ、それは相手のことを強く想うからであって…」


そんな時、胸に激痛が走った。

辛い時、それは今だよ!


「…っう」


僕が俯くと、それを見た慶次くんは僕が恥ずかしがって顔を隠したと思ったらしい。
更に一人でぺらぺらと喋る。

この時、本気で彼を殴りたかった。


「そっかぁ、半兵衛にもやっと好きな人が出来たんだな」

「け、じくん、違うんだ」


僕のかすれた声は、彼には届かず。

慶次くんはさっきから、遠くの山を見つめている。

自分の世界に浸っている証拠だ。

頼む、こっちを向いてくれ!




「で、相手は誰なんだい?もしかして俺…」


そこまで言うと、彼は固まった。

彼が振り返った時には、僕の前に血溜まりができていたからだ。

慶次くんは、激しく咳込む僕を見て、やっと本当に苦しいのだということを理解した。


「半兵衛っ!!」


彼は僕の横にしゃがんで、申し訳なさそうに背中をさすってくれた。


「本当に苦しいならそう言えよ!!」

「僕は最初から、っげほげほ」

「うわぁぁ、半兵衛!!半兵衛ー!!」


慶次くんの呼ぶ声が止んだと思ったら、僕の意識が飛んでいただけだった。








恋ならよかった!
(こんなに辛くはないだろう?)

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