小説

□無自覚の方向音痴
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ここは小田原城。
戦の真っ最中だ。

北条のものであるこの城に、伊達軍が攻めて来たのはつい先程の事。


「おい小十郎!この戦、さっさと終わらせるぜ」

「はっ!この小十郎、全力で政宗様をお守り致します!」


政宗と小十郎は物凄い勢いで戦場を駆け抜け、滑り込むように城内に入った。


それでも尚、スピードは緩めず突き進む。

階段を駆け上がり、幾つもの角を曲がり、敵兵を蹴散らした。

兵士を一通り倒したときである。
政宗が口を開いた。


「小十郎、一つ訊いていいか」

「はっ、何でもご質問くだされ」

「本陣はどこだ?」


「……本陣…ですか…」

「…おい小十郎、まさかわからねぇとか言うんじゃねーだろうな」

「………」

「…………」


しばしの沈黙。


「迷ったな!」

「申し訳ありません。何分、政宗様の背中しか見ていなかったものですから…」

「Ahー、困ったな」


政宗は深く息を吐き出して辺りを見回した。
何だか先程も見たような景色である。


「ここはこの小十郎にお任せください。こちらです」


そう言う小十郎の言葉を信じ、政宗は小十郎について行った。
しかし…


「厠じゃねぇか!」


たどり着いたのは厠だった。


「おかしいな…こっちだと思ったんだが……」


小十郎は腕を組んで眉をひそめた。

さてこれからどうしようかと言う時、誰かが角から姿を現した。


「誰だ!?」


小十郎が政宗の前で現れた人物に向かって刀を構えた。


「ぬぉっ!お、ぉぉお主は」

「Ha!luckyじゃねぇか」


なんと、現れたのは用を足しに来た北条氏政であった。


「ま、ままま待て、ワシは……」

「Ha!待てと言われて待ってられるかよ!」

「ギャアアアアア!!!」



小田原城、伊達軍によって落城。












伊達軍は北条を倒し、一旦奥州へ戻る為に馬を走らせていた。


「小十郎、一つ訊いていいか」

「はっ、何でもご質問くだされ」

「奥州って…どっちだ?」

「………」


政宗の馬を先頭にただひたすらついて来ただけの伊達軍の兵士達は、政宗の問いに誰一人として答える事ができなかった。




(奥州へ着いた時にはは通常の倍の時間が掛かっていたという…)

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