小説

□勘違い
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今日は天気もよく、執務もちょうど一段落ついたところだった。

半兵衛が縁側に腰を下ろし、少しばかり休息を取っていた時のことである。


−クイクイ


何かが半兵衛の裾を引っ張ったのだ。


「!?」


半兵衛は何事だと思い、勢いよく裾の方を見た。

が…

半兵衛はその引っ張ったものを見るなり息を呑んだ。


「キキッ」

「このつぶらな瞳…この愛らしいさ…
秀吉!!こんなに小さくなって…一体どうしてしまったんだい!?」


勿論秀吉ではない。

ただの小猿だ。


「キィ?」

「何か悪いものでも食べたのかい!?待ってて、今バナナをあげるからね」


半兵衛は腰を上げ立ち上がると、部屋に置いてあったバナナを持って来た。

ちなみに、このバナナはいつか秀吉と一緒に食べようと思ってわざわざ取り寄せた高級なバナナである。

半兵衛はそのバナナを秀吉(仮)に与えた。


「キィ、キキッvV」

「美味しいかい?」

「キキィ!!」

「それは良かった」


半兵衛に猿の言葉はわからないが、喜んでいるのでおいしかったのだろうと解釈した。

しかし、どうしてこんな姿に…と考えを巡らせていた半兵衛の耳にどこからか声が聞こえた。
それは半兵衛のよく知る人物の声だ。


「夢吉〜?どこ行っちまったんだぁー??」


声からして、だんだんこっちに近づいて来ているようだ。


「キキッ!!」


秀吉(仮)はその声に反応するように声が聞こえた方に走り出した。


「秀吉!?待ってくれ、秀吉ィィィ!!!」


半兵衛は自分を置いて行ってしまった秀吉(仮)に焦ってその後を追いかけた。


「秀吉とゴホッ共にあるのはゴホッ僕のはずだ!!そうゲホッだろう、秀吉ィィゴホァッ!!!」


急に走ったせいか危ない咳がでてしまう。

少し追いかけていると、前から人が向かって来ていた。
声を聞いた時、まさかとは思っていたが…
半兵衛が嫌っている人物でもある…前田慶次その人だ。


「半兵衛、大丈夫かい!?」


秀吉(仮)を肩に乗せた慶次は半兵衛に近寄って身体の心配をした。

しかし、これくらいなんてことないと言わんばかりに半兵衛はすぐさま息を整える。


「君に心配されるいわれはないよ、ゴホッ!!それより、秀吉を返してくれたまえ!!!ケホッ」

「はぁ!?何言ってんだ、半兵衛?こいつは夢吉だぜ?」


流石の慶次もこれには少し驚いた。
あの秀吉が何故このような小猿になってしまうのか…と。


「違う!!その子はどう見ても秀吉だ!!」

「夢吉をどう見たら秀吉になるんだよ!?」

「全部に決まっているだろう!!おいで秀吉、僕の方に来てくれたらバナナをあげるよ」


半兵衛は夢吉がいつまでも慶次の肩に乗っているので、とうとうバナナでつり出した。


「キッ………」


夢吉が半兵衛の方へ行こうか迷っていると…


「半兵衛と慶次ではないか…珍しいな」


タイミングよく、そこに秀吉が通りかかった。

噂をすればなんとやらである。


「秀吉…」


半兵衛は秀吉を見るなり考え込んでしまった。


「なっ、わかっただろ?こいつは夢吉!!」


慶次は夢吉の頭を撫でながら、半兵衛を見た。

この時だけは、ここを通ってくれた秀吉に少しだけ感謝だ。
半兵衛と話しているだけではいつまでもわかってもらえない気がした。


「そうか…わかったよ」


やっとわかってくれた、そう思ったのも束の間…


「その子は秀吉の子だね!?」


一人状況把握ができていない秀吉は、目を輝かせながら夢吉を見ている半兵衛と、疲れたように溜め息を吐いている慶次を交互に見つめていた。









(半兵衛…さらっと秀吉に失礼なこと言ってるよな?)

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