小説

□梅雨
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梅雨の時期…

雨が降り、外にも出れず、じとじとしていて誰もが嫌になる時期である。

しかし、これらのような理由では無く、この時期を最も嫌っている者がここに一人。


「………」


元就の眉間のしわはこれ以上ないと言うくらいよっていた。

元親に背を向けており、目も合わせようともしない。


「も、元就?」


そんな元就にびくつきながらも声をかけた元親も梅雨の被害者である。

この雨では海に出たくても船が出せないのだ。

こうして、暇を持て余した元親は元就のところを訪れることにしたのだが、元就がこの有り様である。


「うるさい。黙れ」

「なぁ…なんかしねぇ?気晴らしになるぜ!!」

「貴様を葬ることならやってもよかろう」

「…じゃあ、手合わせでもするか?」

「いいだろう。貴様が我に命を捧げるならな」

「………」


今の元就の機嫌は最悪だ。

このイライラをどうしたい?と問えば即答で長曾我部元親にぶつけたいと返ってくるだろう。


「………太陽が出てねぇくらいでなんだよ…」


元親はボソッと悪態をついた。


「何か言ったか?」

「別に…」

「そうか…死ね」


元親はこのタイミングに遊びに来た自分を少し恨めしく思った。

どうにかして元就の機嫌を直せないものかと考えていた元親はふっといい案を思いついた。


「そうだ、元就!!てるてる坊主作ろうぜ!!」

「てるてる坊主?貴様のことだどうせくだらん物だろう」

「これ作れば早く晴れるかもしれないぜ?」


元親のその言葉を聞くなり元就は今日始めて元親の方を見た。


「何!?それは真か!?」

「ああ。こないだ(不審な)南蛮人から聞いたんだ」


その時は信用できるかと思っていたが、元就の機嫌を直すためならこの際何でもいいだろと思った。


「ならば早速作るがよい」

「なんで俺が!?」

「貴様以外誰が作ると言うのだ」


元就は元親を鋭い目つきで睨んだ。


「くっ…わかったよ」


これ以上怒らせるのを避けたい元親は仕方なく頷いた。

まぁ…実際怒らせる云々の前にそれに逆らえないのが元親である。




「できたぜ!!」


元親はてるてる坊主を1つ作りあげた。


「ほぅ…これがてるてる坊主なるものか…」

「あぁ…これを吊すらしいんだが…ここらでいいか?」

「うむ」


元親は元就の返事を聞くとそこにてるてる坊主を吊した。


「よし、これでいいだろ!!」


吊してから10秒たたないうちに元就は空を見上げた。


「止まんではないか」

「そんな早く止むか!!」

「数が足りんのだ!!もっと作るがよかろう」

「自分で作りゃぁいいだろうが…」

「ふむ…」


元就は少し考えると先ほど元親が作ったようにてるてる坊主を作り始めた。

元親はそれを見て驚き、槍…いや、輪刀が降ると思ったとか。

そんなことを思っている間に元就のてるてる坊主は完成した。

が、これで終わりではない。

元就は筆を握ると、てるてる坊主に元親らしき顔を描いた。

そして、どこからか持ってきたのか手には釘を持っている。


「死ね」


−グサッ


釘が元親もどきのてるてる坊主を貫通した。

元就はそれでは飽きたらずリアルに赤いインクで血を表現し始めた。


「ちょ、何しやがんだァァァ!!!」

「うるさい。耳元で叫ぶでないわ」

「くそっ…俺もやってやるぜ!!」


そう言うと、元親もてるてる坊主を作り出した。


「貴様、我の真似をするか!?ならば貴様をより多く殺すまで!!」

「てめぇなんかに負けるかよ!!」




数時間後…

部屋中が元親と元就の顔をしたてるてる坊主で埋まっている頃には雨が上がり、日輪が輝いていた。










(1個差で負けた…!!)

(ふん…我に適うわけなかろう)
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