ヤンデルーム←

□闇(病み)小説
3ページ/4ページ




「なんかここ、秘密基地って感じだよな。食料とか家具とか持ち込んでみようか?」

「旅しながら通う気があるのならお好きにどうぞ。入り口の大きさは配慮に入れときなよ。
 ……で、いつまでここで雨宿りしなきゃいけないんだろう。遅くなったら、みんな心配しちゃうよね」



言いながらジーニアスは、何気なく自分たちが来た道を振り返った。
先ほどまで楽しそうに笑っていたロイドの表情から、ふっと笑顔が消えた。
僅かに目を細めて、ジーニアスの後ろ姿を見つめる。



「――帰りたいか?」

「は?」

「そんなに、帰りたいのか?」

「いや……、そりゃずっとここにいるわけにはいかないでしょ。まァ、まだ雨降ってる気配あるから帰れないけど。
 ――何、帰りたくないの? またなんかやらかした? 姉さんからの宿題、やってないとか?」



少し呆れたようにジーニアスは言って、ロイドの方を向いた。
暗いため、ジーニアスからはロイドの表情がはっきりとは見えていない。
ロイドは無表情から、うっすらと笑みを浮かべて、



「ああ」



そんな、肯定的な意味を持つ短い返答。
やれやれ、とジーニアスは肩をすくめた。



「なんでそんなに宿題忘れるかな、もう。姉さんがかわいそ」



姉さんが可哀相だよ。そう続けようとしたジーニアスだが、その発言は途中で強制的に止められた。



「がっ……!?」



ジーニアスのその腹に、剣が突き刺さっていた。
それはジーニアスの身体を貫通し、剣先が背中から突き出ている。



「――ごめんな」



そう呟いて、ロイドはジーニアスの身体から刺した剣を引き抜いた。
同時に噴き出した返り血を浴びながら、倒れるジーニアスを優しく抱きとめる。



「なっ……、ん、で……?」

「おまえが、みんなに好かれてるからだよ」



途切れ途切れに、掠れる声でやっと言葉を続けたジーニアスの問いかけに、ロイドは冷静な声で答える。
力尽きたようにジーニアスは崩れ、それに合わせるようにロイドも屈み、座った。
自分の膝にジーニアスの頭を乗せ、右腕をその首の下に入れ固定し、姿勢だけは楽な体勢にさせる。



「最近、俺ら2人で遊ぶ機会も減ったよな。気づいたらおまえ、コレットやエミルと一緒にいることが多いし」

「そ、れ……、は……」

「あの2人もおまえのこと、大好きだもんな、仕方ないよな。でもな、」



ロイドは1度抱擁を解いて、左手でジーニアスの前髪を払い除け、そのまま撫でるように顎まで手を滑らせた。
ロイドの左手についていた血が、ジーニアスの前髪を赤く染めた。



「おまえには、俺だけの親友でいてほしいんだよ、ジーニアス」

「ロ……、イ、ド……っ」

「誰にも渡さない。これで、おまえは俺のモノだもんな」



今にも消えそうな、か細い声で名前を呼ばれ、ロイドは満足そうに微笑んだ。
それから左手をジーニアスの腰に回して、再び抱きしめる。
その際貫通した背中の傷に触れて、ジーニアスは苦しそうに呻き声を洩らした。









「ごめん、痛かったよな? でも大丈夫、そのうち楽になるから――」

「……っ」



ジーニアスの意識が朦朧として、やがてずっしりと身体が重く感じるようになった。
ロイドが声をかけても、もう何の反応も示さない。




「おまえの心臓の音、心地良い響きだな」

「………」




「身体、まだ温かいな」

「―――」




「俺はずっと一緒にいるから。心配するな、ジーニアス――」





ロイドの呟きは、しばらく洞窟中に響き続けた。









→次ページ
 あとがき(という名の反省文)+おまけ(挿絵のアップ)
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ