匂紫羅欄花
□第3話 近
3ページ/4ページ
***
「……陛下、ご気分はいかがですか?」
「………して…」
「……はい…?」
「……どうして、貴様がここにいる…?」
***
広い部屋の中には、夜風が窓硝子を揺らす音だけが、カタカタと響いている。
「……陛下がご病気とうかがったもので……ご迷惑でしたか…?」
「……はっ……見舞いに、来たと申すか…?」
そう言って、嘲笑する顔が室内の蝋燭の火に照らされて、ぼんやりと浮かぶ。
「………陛下?」
「――何が、望みだ?」
「え?――」
「……私の機嫌でもとって、権力が欲しいか…?」
「っ!――なっ」
「……それとも、富を望むか?」
「陛下っ!私は、そんな………」
「――本当に、見舞いに来たとでも、言うつもりか…?
……はっ…馬鹿馬鹿しい…………何の利益も、ないのに、誰が来ると、言うのだ……っ!」
興奮のためか、だんだんと息が苦しげなものに変わっていく。
「陛下っ…」
「……それに、この病はまだ治療法が見つかっていないっ…、いずれは、死に、至る………これは移る病……それがわかっていて来たのか…?
……それとも…知らなかったか…?……いずれにしても、愚かな、ことにかわりないがなっ…、………」
「―――――」
―――言葉が、出なかった。
あまりに、驚き過ぎてしまって………
何故この方は、ここまで人を拒絶するのだろう……
それは、この方の特異な環境からなのか
こんなふうに言われて、不思議と腹が立たなかったのは
―――人を拒絶する色を浮かべた瞳の中に、一瞬でも、哀しさのようなものを垣間見た気がしたからだろうか………?
.