匂紫羅欄花
□第3話 近
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「……ほとんどいないって……どういう、意味…?」
「……輿入れされたばかりの、妃であるエルヴィーラ様に話すことでないのは、わかっておりまするが……
……いずれはお耳に入ることかと思うので、どうかお聞き下され………
陛下には今だ、お世継ぎがおられませなんだ。かと言って、位を譲ることができるような血縁もおられん………したがって、もしもの時は王族ではない“誰か”が王となる……」
「…まさか、王座欲しさに…自国の王がどうなってもよいと…?」
「そ、そんなっ!
いくらなんでも酷い!
あんまりですわっ!!」
「……しかし、これが事実なのじゃ……」
「けれど、全ての者が王の位を狙っているわけではないでしょう…?」
「…もちろん、そういった野心のない者もおりまする…。
ですが、王位継承問題と、陛下自身のことはまた別の話。
…陛下は、あまりにも臣下を蔑(ナイガシ)ろになされすぎた……
会議を開いても形ばかりで臣下の話はほとんどお聞きにならず、お一人でお決めになってしまう…。
愛国心ある臣下も、それで陛下から距離をとるようになってしもうたのじゃ…」
「……そんな……」
「…こういう話は、国政に関わらない下の者にまでも広がりまする……それに実際、陛下の従者や侍女などへの扱いは、良いとは申せませぬ……」
「………だから陛下は、臣下から放って置かれていると…?」
「……おそらくは…十分な治療も、受けられているかどうか………ですがエルヴィーラ様、陛下は――」
「もういいわ。」
「!――ひ、姫様?……もしや、陛下に失望されておしまいに…?」
「――そうではないわ、アネット。
……結局、今の話は人づてに聞いたものでしかない、と言うことよ。」
「………姫、様?」
そして、
エルヴィーラは、鮮やかに微笑んだ。
「――だからね、アネット、私は―…………」
***
「っ……」
「――陛下?…お目覚めになられましたのね…?」
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