匂紫羅欄花
□第2話 輪
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草花を時折揺らす、
優しい風。
空を明るく照らす太陽。
今日もここ、ロイセンベルガーでは穏やかな朝を迎えていた……………………………一部を除いて。
***
「――姫様、お茶をお持ちしま…………姫様?」
朝食のあと、エルヴィーに「久しぶりにアネットの入れたフレーバーティーが飲みたい」と言われ、嬉しさに感激しつつ、お茶の用意をして戻ると、なぜか部屋に姿が見えない。
周りの部屋も捜してみるが、やはりいないようだ。
姿が見えないことに少し不安になりながらも、アネットは庭の方へと足を向けた―――
ここ、ロイセンベルガーの首都全体を見渡せる丘に、このベルシュミット城はそびえ立っている。
高い城壁の内には、中心に一際高くそびえる王宮があり、その周りをさまざまな建物が囲んでいる。
一般的に妃が住む一画の総称を後宮といい、ロイセンベルガーでは妃一人一人が分かれた宮(それぞれに名前がある)に住んでいる。
……エルヴィーがあてがわれたのは、あまり人の来ない南西部の宮――――――通称:紫蘭宮【シランノミヤ】である。
他の妃の宮に比べると豪華でも広くもないが(それでも普通より質も広さも申し分ない)、この紫蘭宮は他の宮よりとにかく庭が広いのだ。
……と言っても、エルヴィーが嫁ぐまで放って置かれたため、まだまだ手入れが行き届いていないのだが。
「…姫様〜!どちらにいらっしゃいま……って、
きゃあああ〜〜っっ!!!ひ、姫様ぁ〜!!」
草や木が無造作に生えている庭を進んで行くと、捜していた人の姿があった。
……アネットは、動揺している自身を落ち着けるために、今の状況を頭の中で整理してみた。
目の前(←姫様)の状況
@現在地:土の上(むしろ畑?)
A右手にシャベル
B左手になにやら植物の苗?らしきもの
Cドレスの裾を大胆に捲っている(泊ォがっっ)
Dなぜか長い髪を後ろで一くくり
E顔やら手、さらに服にまで土がついている
……以上。
「……って!!
何やってんですか姫様ぁぁぁ〜〜っっ!!!(泣」
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