匂紫羅欄花

□第1話 心
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……わかっては、いた。
 
 
所詮、この結婚は戦争を避けるためのもの。
 
本人達が望んだものではない。
 
 
 
 
――王族として生まれた女の役割
 
 
政治のための人身御供
 
子を産むための道具
 
 
 
――そこに、本人達の感情が入る余地はない。
 
 
 
たとえ、それが本人が望まないものだったとしても、 
 
――全ては、国の意向。
 
 
自分の行動ひとつが、自国の運命を左右する。
 
 
……逃げることは、赦されない。
 
 
 
 
 
――それでも、
 
 
仕方ないのだと、諦めることは、したくない。
 
 
 
 
 
 
――― 
 
 
 
 
 
 
 
 
――いずれ、こうなることはわかっていた。
 
 
でも、それは、もう少し先のことで、
 
まだ、やりたいことはたくさんあった。
 
家族とも、まだ一緒に過ごせる時間はあると、
思っていた。
 
 
けれど、もう夢を見ていられる時間は終わったのだ。
 
 
――これが、現実。
 
 
 
もう、故国へ帰ることは叶わないだろう。
 
 
 
一度嫁いできた以上、どんな扱いを受けようとも、自分の居場所は此処しかないのだから。
 
 
 
 
 
一度も 会いに来ない夫。
 
 
意地悪な妃達。
 
 
冷たい城の人々。
 
 
 
……本当は、つらい。
今まで温かな環境にいたから、なおさら。
 
 
 

「――ねぇ、エルヴィー」 
 
「何ですか?お母様」
 
「――ふふ、貴女も、もう嫁いでいってしまうのね。 
まだまだ子供だと思っていたのに、もう一人前の女性なんだものね。」
 
「……私も、もう19歳ですから。」
 
――だから、嫁ぐのは仕方がないことなのだ。
 
 
「……エルヴィー」
 
そうして見た母の姿は、
悲しげでありながらも強い意思を感じた。
 
 
ふわり、と。
花の香りがする。
暖かな太陽の下で育った、やさしい、花の香り。
……母の香り。
 
温かな腕が、私の体を包んでくれる。
 
 
「――王族の女として生まれた以上、自分で進む道を選ぶことはできないわ。  
…それでも、
 
その道で
幸せになれるか、なれないかは、貴女次第よ。
 
…だから――」

 
 
 
 
 

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