匂紫羅欄花
□第1話 心
1ページ/3ページ
「今日もいい天気ね〜。
ね、アネット。」
「〜〜っっ!!ね、っじゃありませんわよ姫様っ!!そんなこと言ってる場合じゃないんですっ!!」
「…まあまあ、アネット。落ち着いて。」
「〜〜これが落ち着いていられますかっ!!
輿入れして顔を会わせた時以来、陛下は一度も姫様のところにお渡りになっていませんのよっ!!」
「……アネット、鼻息荒いってば……」
――私がこの国…ロイセンベルガーに来てかれこれ3週間が経とうとしている。
私の夫にあたる方……ジークベルト国王陛下は、今日も姿を現さない。
――この国に来て城に入ったあの日、私は初めて自分の夫となる人に会った。
……私を映すその瞳の中には、何の感情も窺えなかった。
何の言葉を交わすことのないまま、簡単な婚姻の儀式とお披露目を行い、夜になった。
私は、いろいろと慌ただしくて話もろくにできなかったけれど、夜は当然、そういう流れになるのだと思っていた。
……だが、結局その夜、彼が私のもとへ訪れることはなかった…。
――そんな状態が続き、今に至るわけである。
「…仕方ないんじゃない?陛下にしてみれば、私なんてまだまだガキだし。
それに、妃は私だけじゃないんだし。」
「まあっ!そんなことありませんわっっ姫様は十分に魅力的ですっ!!
妃の中では、姫様が1番ですわっ!!!」
そう、私は現在19歳。一方陛下は38歳。親子ほど年が離れているのである。
……まあ、国の間の婚姻ではあまり珍しいことではないのだが…。
それに、陛下には私以外に3人の妃――側室がいる。ちなみに私は第五妃にあたる。
第一妃は正室がなるもので、現在は空位である。
……昔はいたらしいが、何年か前に病死したそうだ。
――輿入れしてきて一度もお渡りがないなんて、普通なら侮辱されているのもいいところだが、陛下の場合は違うらしい。
……この数週間でわかったこと。
…陛下は全く女に興味がないらしい。
私どころか、他の妃のところにも全く行っていないのだとか。
……だからなのか、今だ陛下に世継ぎはいない。
.