匂紫羅欄花

□第1話 心
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「今日もいい天気ね〜。
ね、アネット。」
 
 
「〜〜っっ!!ね、っじゃありませんわよ姫様っ!!そんなこと言ってる場合じゃないんですっ!!」
 
 
「…まあまあ、アネット。落ち着いて。」
 
 
「〜〜これが落ち着いていられますかっ!!
輿入れして顔を会わせた時以来、陛下は一度も姫様のところにお渡りになっていませんのよっ!!」
 
 
「……アネット、鼻息荒いってば……」
 
 
 
 
 
――私がこの国…ロイセンベルガーに来てかれこれ3週間が経とうとしている。 
 
私の夫にあたる方……ジークベルト国王陛下は、今日も姿を現さない。
 
 
 
――この国に来て城に入ったあの日、私は初めて自分の夫となる人に会った。
 
 
……私を映すその瞳の中には、何の感情も窺えなかった。
 
 
何の言葉を交わすことのないまま、簡単な婚姻の儀式とお披露目を行い、夜になった。
 
 
私は、いろいろと慌ただしくて話もろくにできなかったけれど、夜は当然、そういう流れになるのだと思っていた。
 
 
 
……だが、結局その夜、彼が私のもとへ訪れることはなかった…。
 
 
 
 
 
――そんな状態が続き、今に至るわけである。
 
 
 
 
 
「…仕方ないんじゃない?陛下にしてみれば、私なんてまだまだガキだし。
それに、妃は私だけじゃないんだし。」
 
 
「まあっ!そんなことありませんわっっ姫様は十分に魅力的ですっ!!
妃の中では、姫様が1番ですわっ!!!」
 
 
 
そう、私は現在19歳。一方陛下は38歳。親子ほど年が離れているのである。
 
……まあ、国の間の婚姻ではあまり珍しいことではないのだが…。
 
 
それに、陛下には私以外に3人の妃――側室がいる。ちなみに私は第五妃にあたる。
 
 
第一妃は正室がなるもので、現在は空位である。
……昔はいたらしいが、何年か前に病死したそうだ。 
 
 
――輿入れしてきて一度もお渡りがないなんて、普通なら侮辱されているのもいいところだが、陛下の場合は違うらしい。
 
 
 
 
……この数週間でわかったこと。
 
 
 
…陛下は全く女に興味がないらしい。
 
私どころか、他の妃のところにも全く行っていないのだとか。
 
……だからなのか、今だ陛下に世継ぎはいない。
 
 
 
 
 

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