素敵な宝物
□笑顔の行方
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えと…
何が起きてるんだっけ?
オレの身体は、何故かライバルのオレンジ頭の腕の中。
「菊丸クン…」
オレの名前を呼ぶ甘い声が、耳元を掠めて擽ったい。
「何…すんだよ、変態…」
「酷いなぁ、久々に本気の恋なのに。」
「ふざけんな!オマエ…桃の事好きって言ってたじゃんっ!」
そう、オレンジ頭…千石は桃の事が好きで、オレと恋敵で。
んで、お互い宣戦布告したのが1週間前。
「あぁ、オモシロクン?…まさか、菊丸クン…それ本気にしてたの?」
「ほぇ………」
未だ千石に抱き締められているオレを、不思議そうに見つめてくる目線と目が合う。
「どーゆー事だよ。」
「ん〜、つまり菊丸クンに近づく為だったんだけどな。」
「っ!」
んじゃ、千石は桃を好きなんじゃなくて…始めっからオレが好きだったって事?
「…騙されたにゃ」
「もぅ、菊丸クンってばカワイイなぁ。」
「うるさいっ!//」
けど、て事は…
「んじゃ、桃はオレが貰うかんな。」
「え〜、ダメだよ。菊丸クンは俺が貰っちゃうんだから。」
…意味がわからない。
大体、話が通じてない。
「あのね、オレ、桃が好きなんだけど。」
「うんうん、でも俺は菊丸クンが好きだから。」
ダメだ…。
完全に何を言っても…。
深いため息をつくと、千石を見る。
「…ね、離して?」
「いくら菊丸クンの頼みでも、それは聞いてあげられないなぁ。」
涼しい顔でそう言うと、オレの顔を両手で包み込んでくる。
「菊丸クン…」
一瞬見せた真剣な表情に、思わず見入ってしまった。
その隙を突かれて…
チュッ
「…んっ///」
口唇を奪われてしまった。
やっぱ、コイツ手早いんだ!
「何すんだよ!いきなりっ!//」
「念願の菊丸クンとの初キッス//」
上目遣いに睨み付けると、本当に嬉しそうに、うっすら赤い顔をしている千石。
そんな顔見ちゃうと、何も言えないじゃん。
「…オレ、軽いヤツ嫌いなんだけど。」
「うんうん、俺も。やっぱ、男は一途じゃないとねぇ。」
「………」
すっかり千石ペースの時間が流れる。
オレは、観念して深くため息をつくと、千石に提案した。
「よし、んじゃ、今から遊びに連れてって。」
「マジ?!やりぃ!生きてて良かったぁ…菊丸クンとデート…」
「デートじゃない!テスト!」
大袈裟な千石に、ピシャリと釘を刺す。
「オレを楽しませてくれたら、考えちゃる。」
「うんうん、任せて〜。」
即答…
相変わらず軽い千石だけど…
大丈夫かにゃ?
「絶対、デートじゃないかんな!テスト!」
「はいはい、わかってるよ〜。」
って言いながら、手を握ってくる。
「もぅ、お触り禁止!」
「えぇ〜!」
本気で落ち込んでいるらしい千石。
まぁ、その方が静かで良いかも。
「んで、どこ行く?」
「まずは、ウィンドウショッピングしよう。菊丸クンと並んで歩けるなんて、街行く人に自慢しなきゃ。」
「…別に自慢にならないと思うけど。」
また不意を突かれて、手をギュッと握ってくる。
「デートの時は、手繋がないとね。」
「だからっ…」
もぅ、良いや。
否定すんのも疲れちゃった。
「菊丸クン、絶対キミを楽しませてあげるよ。」
爽やかに笑う千石の笑顔に、不覚にもドキッとしたのは黙っとこ。
後に、オレは―
桃に気持ちを伝える事は無かった。
だけど、浮気したら速攻別れると言う条件付き。
「幸せにしろよな。」
「もち!世界一幸せにしてあげるよ〜。」
…相変わらず、軽いけど
信じてみる事にした。
だって、オレといる時の千石は、本当に幸せいっぱいに笑うから。
END