あれ、と濡れた髪の毛を拭きながら片手にミネラルウォーターを飲むディーノが広い室内を見渡す。
一緒に入るかと誘った風呂をあっさり断られ、先に入ってベッドの上で本を読んでいたはずの雲雀の姿が見当たらない事に一気に焦りを感じる。まさか帰っちまったんじゃねーだろうなと慌てながら何気なくベランダに通じる窓を見ると、ふわりと入り込んだ生温い風がカーテンをゆらゆらと揺らしていた。
ばか、と小さく呟いてカーテンを大きく開けると、ベランダに立っている雲雀の姿が見える。


「恭弥、湯冷めしちまうだろ。」
「…ああ、あなたもう戻って来たの。」

一分でも長く雲雀と一緒にいたいディーノの風呂はいつも早い。ひんやりと冷たくなった雲雀の手を取り、困った奴だなとディーノは笑った。


「あなたこそ早く髪乾かしなよ。」
「じゃあ恭弥も中に戻ろうぜ。」
「やだ。」

外を見ていたい。そう言って雲雀が見上げた空に浮いているのは綺麗に真ん丸になった月だった。ああ、今日が満月だったのかと理解したディーノが、じゃあ俺も外にいるかと雲雀の隣に立った。
髪の毛からぽたぽた垂れる水滴をタオルで乱暴に拭くと、月の光に照らされた金髪がきらきらと輝いているように見える。同じ色だねと小さく言葉にすると、何がだ?とディーノが首を傾げた。

「ねえ、萩の月が食べたくなった。」
「相変わらず会話の脈絡ねぇなあ…」

ま、そういう所が可愛いんだけどな。そう言って笑ったディーノに雲雀が眉を寄せる。
何をしても自分を可愛いと言うディーノを、たまに大丈夫なのだろうかと思う時がある。ディーノの世界が自分一色になるなんて事はきっと無いだろうが、もし自分がディーノの元から離れなければいけない時が来たらどうするのだろう。
もしかしたら、山本のように。


「なあ、そろそろ中に入んねぇか?」
「…寒いなら寒いって言えば?」
「ああ、寒い。だから温めてくれ。」

ぐい、と腕を引かれて室内に戻される。ベッドに押し倒されたと思ったら首筋に顔を埋められ、濡れたままのディーノの髪の毛がひんやりと雲雀の肌に触れた。ぞくりと鳥肌を立たせながらディーノの首にかけられていたタオルをゆっくり取り、優しい手つきで髪の毛を拭いてやる。仕方のない人。わざと子供のように振る舞っては、きっと彼らから自分をいつ奪おうか考えている大人の男。
決断の時はまだまだ先だ。だからこそ、こうやって選ばずにいる。


「恭弥抱いてると本当に落ち着くなー。」
「人を抱き枕扱いしないでくれる?」
「もう一回風呂入んねぇ?今度は一緒に。」
「咬み殺されたいの、そんなに。」

あと重い。少し乾いてパサパサになった髪の毛を強く引っ張り、引き離そうとする雲雀に焦ったディーノが慌てて体を起こす。
ハゲたらどうすんだよ。引っ張られた所を撫でながらわざとらしく唇を尖らせたディーノが何か思い付いたように笑った。ハゲたらお婿に行けねーんだぞ、だから。


「恭弥が責任取ってくれるんだよな?」
「構わないよ。アデ○ンスで良いね。」
「うわ、その手があったか…」

残念。言いながら雲雀にじゃれつくディーノが目を細める。とろりと蕩けそうな優しい瞳に、どうしてこの人は自分を好きなのだろうと思った。ずっと一緒にいたいとは口にしても、ずっと一緒にいようなとは言わない。
そんなディーノの「ずっと」はいつまで続くのだろうか。


「あなたはいつまで僕の傍にいるの?」

え?急な問い掛けに思わず間の抜けた声を上げてしまう。
質問の意味を頭で理解してから、ああ、と納得したように笑って雲雀を見つめ直したディーノが照れたように口を開いた。


「死が二人を分かつまで、とか。」

触れる指先が雲雀の左手の薬指を優しくなぞった。
まあ、俺の勝手な希望なんだけど。そう言って肩を竦めるディーノが外人らしいポーズだろと、おどけたように舌を出して見せる。
バカじゃないのと呟いた後、触れられた薬指をしばらく眺めていた雲雀がくすりと笑った。


「まるでプロポーズみたいだね。」

おかしいよ。微笑んだまま、ディーノが先程したのと同じようにディーノの左手の薬指に触れる雲雀が一体何を考えてそんな行動をしたのかは分からない。(きっと何も考えてないのかも知れないけど。)
じゃあもしこれが本当にプロポーズだったらこの気持ちは叶うのだろうかと思うが、まだ結論を急ぐには早過ぎる。ディーノにも大切なものがあるように、雲雀だって他にも大切なものを抱えている。
目の当たりにしてきたあの絆。それと。


「リボーンに貰った指輪はまだあるのか?」
「当然だね。赤ん坊に貰ったんだからあれは僕の宝物だよ。」

雲雀お気に入りの存在。まだまだリボーンには敵わなさそうだと苦笑いを浮かべながら、力任せに雲雀をベッドに押し倒す。
やだ、と小さな抵抗をする細い体を掻き抱き、いつか雲雀の中にあるまだ小さな世界の軸に1番大きく溶け込めるのが自分であればと願った。








「名字が六道になる魔法をかけてあげますよ!雲雀恭弥!」
「呪いだね。」

後日、こっそり雲雀の学ランに盗聴器を仕掛けておいたらしい骸の、焦りながらのなんちゃってプロポーズは見事に失敗。
ちなみに獄寺に同じ事を言ったら今までにないほど白い目で見られた、らしい。(そして盗聴器は木っ端みじんに破壊されてしまいました。)































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