その鳥はいつもお前にべったりだな。
ビール片手に雲雀の肩に乗る黄色い鳥(命名、ヒバード。)を見ながら綱吉が言う。そう?と返すものの、すりすりと雲雀の頬に擦り寄ってはヒバリ、と甘えた声を出す鳥に満更でもない雲雀が微かに笑った。その様子を見ていた綱吉も、まあ笑うには笑っていたのだが握られていた缶はしっかりと潰され、中身がぼとぼとと床に垂れ流しになっていた。気付かない雲雀はひたすらポッキーを食べ続け、鳥は雲雀に甘え続ける。そして暖房がしっかり効いた室内がいつの間にか氷点下並の気温のように感じられるのを、その場にいた骸と山本は大人しく耐えていた。


「プレゼントだ。」

その次の日、珍しく遅くに帰宅した綱吉が袋から取り出した箱をぽいっと雲雀に投げ付け、どっかりとソファーへと座る。お帰りなさいませ十代目!言いながらビールを綱吉へ差し出し、肩を揉む獄寺に対しお前も座れ、と綱吉が声をかける。

「今日は遅かったんですね十代目。」
「ああ、いろいろ行ったからな。」

にやにや笑う綱吉が箱を開ける雲雀の様子を見る。中身を一つ取り出してはそれを眺める雲雀が久しぶりに食べる、と(表情はあまり変わらないが。)嬉しそう言ったそれはひよこの形をした福岡名物にもなっているもので。好きだろ?言う綱吉に雲雀が素直に頷いた。前に食べた時は頭から食べるか、それとも尻から食べるかで骸と獄寺が言い争っていた気がする。
いそいそと包みを開け、さて食べるかと口に運ぼうとした雲雀の元にばさばさと翼を羽ばたかせたヒバードが近付く。ちょこんとテーブルの上に乗り、つぶらな瞳でひよこをじっと見つめて一言、「トモダチ」と言うヒバードに雲雀が動きを止めた。


『トモダチー、トモダチー。』
「…これは君の友達じゃないよ。」
『ダメ!トモダチ!トモダチ!』

食べちゃダメとでも言いたいのか。うるうると潤んだ瞳を向けられた雲雀が困った顔をしながら手に持つひよことヒバードを交互に見遣る。その様子を見ていた綱吉が食わないのか?と笑いながら意地悪く聞いてくるのに、この人はこれがやりたかったんですねと少し離れた場所でそれを見ていた骸が気の毒そうな視線を向けていた。(関わりたくないので特に何をする気もない。)
楽しげにヒュッと口笛を吹く綱吉が持っていた袋から更に何かを取り出すと、それを見た雲雀がじろりと綱吉を睨んだ。取り出されたそれは唐揚げ、焼鳥、骨付きチキンなどの鳥肉尽くしの食べ物ばかりだった。


『ヒドイ!ツナヨシ!ヒドイ!』

ここまで理解出来るなんて賢いのも考えものだ。ぶるぶると震えるヒバードを、雲雀がそっと両手で包むように抱き上げた。
部屋に戻ろうか。そう言って後ろ姿を向ける雲雀に、綱吉が待てよと声をかける。あからさまに嫌な顔をする雲雀が振り向き綱吉を睨むのに、くくっと喉を鳴らしながら笑う綱吉がそれいらないのか?とテーブルに置かれたままのひよこまんじゅうを指差した。


「せっかく可愛いお前のために買ってきてやったのに。」
「いらない。」
「へえ?好きなんじゃないのか?」

三本目のビールを開けた綱吉が細めた目を雲雀に向ける。口元は楽しくて仕方ないと言いたげに歪んだままで、それがまた雲雀の機嫌を下げた。しかし、自分の機嫌以上に綱吉の機嫌を損ねる事のほうが非常に面倒臭い(恐ろしい)のでこのまま無視して部屋に戻ってしまいたいのをぐっと堪える。

「好きだよ。でも、いらない。」

ぽつりと言葉を漏らす雲雀の表情はそれはもう切なげで、例えるならば愛しい人とどうしようもない理由で引き裂かれたといった、まるでロミオとジュリエットのような雰囲気を醸し出していた。(大袈裟。)
まさか本当にいらないと言われるなんて思わなかったのだろうか。些か機嫌を悪くしたらしい綱吉が笑みを無くし、黙ったまま雲雀を見る。


「用がないなら部屋に戻るから。」
「好きにしろ。でも後で俺の部屋に来い。」
「…何で。」
「いいから俺の言う事には従え。」

ガン!とテーブルを思いきり蹴る綱吉に雲雀が眉を寄せる。獄寺は完全に固まったまま動かず、骸はいつの間にか姿を消していた。
わかった、と小さく返事をした雲雀が出て行くのを見ながら、これから自分の身にどんな恐ろしいことが待っているのだろうと獄寺が肩を震わせる。


「そんなにあの鳥が大事なのか。」

チッと舌打ちをし、唸るような低い声で呟いた綱吉の言葉は雲雀にはもちろん聞こえない。
じろりと獄寺を見た綱吉がポケットから荒縄を取り出すのに、やっぱりとばっちり食う事になるのかと目に涙を浮かべた獄寺の叫び声がリビングに響く。


「クフ、さすが僕…セーフですね。」

その声を聞いていた骸が庭でやれやれ、と冷や汗を拭いながら深く息を吐き、キッチンの窓は良い非常口になりますね!と新たな発見に自分自身を誉める。
とりあえず明日まで帰宅しないほうが良いですねと思い、千種に電話をするも何の用ですか家には泊めませんよと冷たく返される。
びゅうっと吹く秋の風は寒いが、家の中はそれ以上に寒く恐ろしい。しかし更に寒いものがあった。


「風邪ひいちゃいますよ千種…」
『知りません。』






































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