帰宅した雲雀の右手にまず最初に注目したのは獄寺だった。
見た瞬間にゲ…、と声を上げてしまった事に慌てて口を閉じ、辺りを首を回しながら確認する。笹川は夕飯のメニューを何にするかと悩みながら『月刊、みんなのご飯』を真剣に読んでいるし、骸はソファーに座って携帯で音楽を聴いている。山本とランボの姿はないし、珍しい事に綱吉もいない。自分以外の誰も気付かない事にホッと息を吐き、獄寺が睨みながらゆっくりと雲雀に近付く。
側に寄ってきた獄寺に何、と迷惑そうな顔をした(失礼な奴だ!)雲雀の右手を掴み、獄寺が詰め寄るように雲雀を壁へと追いやる。壁と獄寺に挟まれた雲雀が掴まれていない左手でトンファーを取り出そうとするのを慌てて制止し、今のこの状況を作り出した原因を無言のままじっと見つめた。

「ああ、これ?」

気が付いた雲雀も自分の右手に視線を向ける。
すらりとした細い指、しかも薬指に嵌められたシンプルなシルバーリングを微笑みながら見つめる雲雀が、今度は獄寺をその笑顔のまま見つめる。良いでしょ、とまるで自慢するような満ち足りたその顔に不覚にもドキッとしてしまった事が獄寺を内心でかなり焦らせる。(いや、獄寺の場合すぐに顔に出てしまうのだが。)


「ちょっと、何してるんですか。」

いつの間に来たのだろう、横からひょこっと骸が二人の間を割るようにして入って来たのに、獄寺が思わず一歩引いてしまう。雲雀の右手を掴んでいる獄寺を見て、沢田綱吉ラブと見せ掛けて実は君…などと骸が口走るのに、違えよ!と何だかやや弱気な否定。(先程のときめきがちょっとだけ後ろめたい。)まあ冗談ですけどと、からかうようにクフフと笑った骸が掴まれたままだった雲雀の右手から獄寺の腕を離させる。


「……。」

その時に見えてしまった物に動きを止めた骸が、何度か目を擦った。(見間違いだと思いたい気持ちも分からなくもない。)そして獄寺と同じように辺りを見回してはホッと息を吐いて、雲雀の両肩をがしっと力強く掴んだ。

「…悪い事は言いません。今すぐにそれを外して下さい。」
「やだ。」
「君と僕たちが元気な明日を迎えるために、一刻も早く。」

酒を調達してくると言って出て行った綱吉が帰宅するのはもう時間の問題だった。山本もランボと公園に行ったが、そんなに遅くまで遊んできたりはしないだろう。ああもうあの野郎!頭に浮かんだ金髪の人物にふざけるなと毒づき、獄寺が頭を抱える。
お願いですから外して下さい!力付くででも何とかしようと、雲雀の右手を掴もうとした骸の腕を振り払った雲雀が眉を寄せ、嵌められている指輪を庇うように後ろに手を隠した。


「やだ。やめてよ。絶対に外さない。」
「う…」

頑なに拒む雲雀は何だかいつもと違って見える。妙に健気というか、これではまるでこちらが悪者に思えてしまうようで。動けずにいる骸たちの後ろで笹川が今夜はロールキャベツにするか!と叫び、雲雀にデザートはフォンダンショコラで良いかと問う。何だかデザートの方に気合い入ってませんか?思った骸が、はっとある考えを思い付く。


「じゃあ僕のデザートあげますから、外して貰えませんか?」
「やだ。」

即答。これにも釣られないとは!雲雀にここまで想われている人物に、我が身の安全以上に段々と嫉妬心が沸いて来た骸が、溜息を吐いて真っ直ぐに雲雀を見つめる。

「そんなに彼が好きなんですか。沢田綱吉よりも…。君を好きだと言う山本武よりも。」
「お、おい!」

何だか不穏な展開になってきてしまった事に、慌てて獄寺が骸と雲雀を引き離す。すっかり機嫌を損ねてしまった雲雀がトンファーを構え、骸がポケットに手を伸ばすのにメンバー内でのマジギレはルール違反だろうが!と自分もナイフを構える獄寺に説得力は無い。綱吉がいればこんな状況にはならないのだが(いたらいたで、それは大変だが。)今は止める人物がいない。緊張感が走る中、ガラッと開いたリビングの窓から小さな影がしゅっと入って来た。


「ちゃおっス。」

黒いスーツを身に纏った、お人形さんみたいな人物がにやりとニヒルな笑いを浮かべた。赤ん坊、と嬉しそうに笑った雲雀がトンファーを下ろすのに、骸もまたポケットから手を離し獄寺もナイフをしまう。
我らがボンゴレのリーダーである沢田綱吉と張る強さを持ち、この小さい体ながらも大きな存在感を放つリボーンの前ではさすがに大人しくならざるを得ない。(逆らいでもしたら家賃を上げられてしまいそうだ。)

「ヒバリ、今すぐその指輪を外せ。」
「……赤ん坊がそう言うなら。」

でもせっかく君がくれたのに。指輪をするりと外した雲雀が不満そうにそう呟くのに、骸と獄寺が「は?」と揃って間抜けな声を上げた。外した指輪を学ランのポケットに入れた雲雀がこれで良いんでしょと怒った口調で言うのに、そんなに怒るなとリボーンがまた笑う。

「こんなケンカの原因になっちまうなら仕方ねーだろ。」
「でも、」
「ペアに変わりねーんだ。肌身離さず持ってれば良いだろ。」

ペアリングですか!?
ぎょっとする骸と獄寺の目の前で、それはそうだけどとまだ不満そうな雲雀がリボーンを抱き上げる。端から見ればただの痴話喧嘩をしているカップル(赤ん坊相手に使う表現ではないかも知れないが。)にしか見えない光景に、一気に脱力した。予想を裏切った指輪の相手に安心して、そして次は綱吉が帰宅してしまう前に何とかリボーンにお帰り願いたいと二人が必死になる。
次の日、濡れ衣を着せられた金髪の男も雲雀のポケットから出てきた指輪に心荒れる事になるとは誰も予想など出来ず。



「ツナか!?山本か!?…まさか南国果実…!」
「あんなのに貰ったらすぐにでも捨てる。」

そもそも受け取らないから。優雅にカフェオレを飲む雲雀に、それもそうだよなと納得。(納得しちゃうのかよ。)必死で聞き出した指輪を渡した相手の名前に、同じように脱力した。


































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