【Extra## Collection】

□【Confidence】
3ページ/6ページ

********



―――翌日
 黒龍会総本部 儀の間




盃事(さかずきごと)は戦前から続く様式に則り、しめやかに執り行われた。
出席した者はこの密状を知り得る上層幹部のみである。

この見届け人として、『東谷征二』。
盃による「絆」を結ぶ兄弟分として、『鹿羽 虎ノ助』(旧姓・芝九蔵)。

本来ならば鹿羽組内での盃事であるが、身請けしたのは黒龍会である事に加え、自ら牙琉霧人と盃を申し出た『虎』は、現在黒龍会上層幹部の一員的立場だった。

それに伴い、黒龍会も新たな幹部を迎える事となり、総代であるゴドーが列席するに至ったのである。



「本日、皆々様に於かれましては…………」



鹿羽組の当主『鹿羽うらみ』がつらつらと盃事の定石な御礼を述べる中。ゴドーは、最下座に位置する牙琉霧人の視線を受け続けていた。

一見こそ穏やかに見える表情の中から何処かドロリとどす黒く、肌寒いものを感じ取っている。

あの弟からは殆ど感じなかった『巌徒海慈』の狂人的な闇の部分がそこに垣間見え、ゴドーは他に悟られぬ程度の舌打ちをした。


(虎の盃は、あのクソジジイが一枚噛んでいるに間違いねェんだが……)


それを『毒』として有効に利用しようとするならば黒龍会へと直結する盃を要求するのが普通だ。

しかし、それを敢えて避け、距離を置く形の状況を作り上げた意図が読み切れない。

それは東谷も同じようで、だからこそ自らを『見届け人』の位置に据え、状況を見守る形を取ったのだろう。


「……またケジメと致す所、虎ノ助の兄弟分の証と致し、背負いものを彫った次第にて―――僭越ながら兄弟の青刺……披露させて頂こうと存じます」


うらみの言葉に霧人は薄ら笑みを浮かべ、静かに上着を脱ぐ。

やがてその白い肌が露出し、スルリとシャツが畳に落ちて。

霧人は立て膝のまま下座の中央に移動し、流れるような動きで背を向けた。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ