【Extra## Collection】

□Crimson Rose
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―――そして。


ボクはこうして、キミを檻に閉じ込めた。

キミが好きだった10月の黄昏れた海も、一緒に見た。

キミが永久にした信ちゃんの息子にずっと付き添われて、死ねない地獄も味わった。

益々無口になったキミの隣でボクは毎日、海を眺めていた。
唇も動かない横顔に、頬を寄せていた。


消えそうなキャンドルが南風に揺れている。
消えかけた眼光が、それをボンヤリと眺めて続けていた。


「外に行こうね、狩魔クン」


外は、岩壁の岬。

果てない海は何処までも続き、夜空に浮かぶ月が海面を碧く輝かせて。

ボクは車椅子を押して、狩魔クンに話し掛ける。
夜風が少し冷たかったから、ボクのジャケットで狩魔クンの細い身体を包み込んだ。


「ね、明日はボクも休日だからさ。何処かに行こうか?」

「……………」

「薔薇園にスル?それとも…………」


すると狩魔クンは珍しく、フン……と笑って。

月を、見上げた。


「ウン……狩魔クンみたい、だね――――」


骨と皮だけの角ばった横顔が、コンドルのように見えた。

キミは昔から綺麗だった。その横顔がボクは大好きだった。

その顔が、カクンと下を向く。
意地悪く、笑ったまま。



「――――狩魔クン?」



覗き込むボクを、狩魔クンは何時までも嘲笑っていた。

何時までも、いつまでも、意地悪く笑い続けていた。

初めて無理矢理抱いた時も、キミは同じように笑っていたのを思い出して………ボクも、少ぉしだけ、笑った。


「ああ……やっと―――ボクのモノになったんだねぇ……………」



涙は、出せなかった。

だってあの時に、そうインプットしたからだ。


誰にも知られず、予め失われた物語はここで幕を閉じた。
抱き締めた細い身体は次第に冷たくなってきて。


世界中の絶望を散りばめた蒼い海を前にして。
今夜はこうして、風に吹かれよう。



願わくば。

何れ地を輝かせる朝陽の光に、ボクの瞼も開かぬ事を―――――。








――――End.


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