【Extra## Collection】
□『Evangelist』
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「ま、座ってよ。立ち話はスキじゃ、ナイ」
「クッ!随分と余裕ヅラだな、厳徒海慈……」
「ン?そうだねぇ……本当はもうチョット調べて欲しかったかなァ……。神ノ木ちゃんにしては時期尚早過ぎて、ボクはすこぉしザンネンだよ」
陰湿な笑みを浮かべながら、厳徒はテーブル上に置いてあるカードの山に手を置いた。
表面に銀色のアラベスク模様のそれを黒革の手がつかみ取り、無言のままその隣に佇む成歩堂に手渡す。
「なるほどちゃんのスキなようにシャッフルしてくれる?コレから小さなゲームをするんだよ、神ノ木ちゃんと」
「え……っ?」
「待ちな……オレはアンタとゲームする気はねェぜ?…それとも――あの罪ひとつでも認める気になったのかい?」
「そうだねぇ……賭けてもイイかな、ソレ」
ゴドーは沸き立つ血を押さえながら、その唐突な申し入れに口を歪ませる。
電波に乗せ、口頭に伝えたあの『脅し』は、多少の捏造を含んだものであったが―――自身の持つ『死神の囁き』が、確かにその足元を揺るがせていると、ゴドーは見ていた。
だが、確証はない。
これが裁きの庭であったならば、裁判長から証拠の提出を余儀なくされるような場面である。
(乗れ、という事か―――?)
一歩違えば、自己を破滅にと追いやるスキャンダラス。
自身が隠し持つボイスレコーダにも、厳徒は恐らく気付いている筈だ。
(ヌラリ鯰か……クソ……)
戸惑いながらも、厳徒の言葉を素直に受け入れる成歩堂の姿に、ゴドーは一抹の不安を感じていた。
危うい手つきでシャッフルされるカード。
このゲームに応じるとするならば、成歩堂がディーラーとなる。
己が迷う永劫の女神―――ゴドーにとって成歩堂はこの世に遺された、たったひとつの『魂の断片』だった。
あの日々の確かな命の記憶……それがこの腕から離れ、目前の闇に囚われている。
(オレに賭けちゃくれないかい……コネコちゃん?)
時間を稼ぐ事が、当初ゴドーの目的であった。
根底からの撲滅には未だ時を有するからだ。
しかし、目前の成歩堂にゴドーの意思は傾く。
その十字架に奪われゆく姿など見たくはなかった。
この慈しみと愛情の間に漂わせてしまっても、己は決して手放す事は出来ない彼なのだ。
失いたくは、ない。
それがどんな想いの形であるとしても―――。