【Extra## Collection】
□Darkness of the mind
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〓Hold on a minute〓
「やぁ、神ノ木ちゃん!泳いでる?」
「棺桶近くなると、三途の河が恋しくなるのかい……?」
喫煙室の窓硝子に神ノ木ちゃんの姿を見付け、奇遇を装って室内へと入ってみた。
鼻をつくニコチンの苦い薫りが、いかにも身体に悪そうで。
ボクは彼にニコリと微笑み掛け、懐からシガレットケースを取り出して、その黒い葉を一本くわえ、灯を点した。
「流浪のジプシーだよね、ソレ」
「…………。」
「揺れるドレスの奥の魔法とか信じてるのかな……ロマンチスト、だね」
興味がナイと言うようにそのジプシーに酔う彼は、相変わらずピリピリとした空気を漂わせる。
未だ野性の感覚を持ち続ける獅子のコは、その牙を内に秘め、この箱庭を食いちぎる機会を窺っていた。
(イジワルしたくなるなァ……そんなに判りやすいと、さ…)
その内に秘めた激しさが、箱庭に刺激を与えてくれる。彼も、ボクのような毒を好むイキモノだから。
血が沸騰スルような、命懸けのヒマツブシをボクは彼に求めて。
彼には、愉快なジョークを与える。
ギブ、アンド、テイク。
さぁ、笑ってごらん?
神ノ木 荘龍――――
「ボク最近、新しいペット飼ったんだよ。捨てネコちゃんだった」
「聞きたくもねぇ」
「今が1番カワイイ盛りでねぇ……ミルクが好物なんだケド」
懐から取り出した1枚の印画紙を彼にちらつかせると――漸く彼は、低い唸り声を上げた。
ああ…キミには笑えナイかな?
こんな、ジョークは。
「アンタ――潰されてェのか?」
「そうだなァ……機会がアレば、ね?」
「死神が囁くか―――今、オレが裁くか……好きな方を選びな」
「キミが見捨てたネコちゃんは、ドチラを選ぶと思う?」
「―――何だと?」
「飼い主を殺ス、方法をだよ……」
崩れかけたエクスタシーを彼へと向け、その威嚇を一身に受けた。
その心地良い緊迫感にボクは酔う。
不意に陽が陰り、若い獅子の口元は歪んだ―――。
「有刺鉄線に痼ツク、若き獅子の渇いた血は―――何色だったかなァ……」
「――――――。」
「ネコちゃんは、まあるい瞳でソレを見てイタのにねぇ――ザンネン、だよ……」
クスクスと込み上げる笑いを漏らしながら、ボクは部屋を後にした。
彼が、牙を剥く野獣となる日も近い。
そんな中で奏でる甘いワルツは、一体どんなキモチにさせてくれるだろう。
―――愉しみ、だよ……
Extra##
【Hold on a minute】
――――End