【Extra## Collection】
□idea―イデア―
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地裁の階段を降りる途中の踊場で、2階の廊下の奥からあの声を鼓膜が拾い上げた。
事務的な言葉の列を並べながらも、時折困惑した声音。
息を殺し近寄ると、その角の先に丸い肩を発見し、ゴドーは口端を少し上げた。
(ピンチの時、神にしか祈らねェようになっちまったら……人間終わっちまったようなモンだがなァ―――)
意外にも願いが通じちゃったぜと悪戯気に笑んだゴドーであったのだが。
その耳元に宛てた機械が放つ電波の先の人物の名―――それを聞いた途端、表情が消えた。
「でも…今からなんて…あの……局長さん―――」
何事幸運はそれだけを与える訳でも無いらしい。
忌み嫌うその『敵』の存在を知り、その耳元に囁く筈だった甘い台詞を飲み込んで。
代償的な舌打ちをした後、その背後に忍び寄り―――丸みを帯びた柔らかい手から携帯を取り上げた。
「わっ!!―――ご……ゴドーさ……ふぐぐ!!」
「……Hello…こちらテロ放送局――究極の生放送…チャンネルはThirteen、だぜ…」
『アハハ!凄いゴールデンタイムに遭遇できて愉快だよ、神ノ木ちゃん』
目を白黒させ見上げる成歩堂に、ゴドーは形ばかりの笑みを見せた。
掌に感じる唇が何か云いたげに怖ず怖ずと動くが……それにも構わず、口は苛立ちを吐き続ける。
「クッ!アンタを裁き、断罪し、処刑するこの番組……視聴者は拍手喝采って寸法さ…」
『そう?ボクには、仕事に飽きた預言者の共産主義的テロビジョンの方がスキなんだケドね……こういうのも悪くナイよ、たまには』
「面倒は御免だぜ?コイツは生放送だからなァ……」
『……視聴率のチェック、忘れずにね?今のボクに出来るのは降参か、さもなきゃ死ぬかのどちらかだろうし』
「現実を直視しな―――エンパイア野郎」
『アハハ!キミもね、神ノ木ちゃん!檻の中のカナリアが、少ぉし淋しそうにして待ってイルからね………』
―――プツリ……
ツーツーツー……と繰り返される通話終了音に、ゴドーは再度舌打ちをして―――柔らかな唇から掌を外す。
成歩堂は俯きながらも、上目使いにチラチラとゴドーを見ていた。
困惑の色を隠し切れない丸い瞳が、己の口元を眺めている。
「しつこい勧誘の撃退法――教えちゃったぜ」
「……ゴドーさん…」
「結構なスリル……楽しんでくれたかい、コネコちゃん?」
奪った携帯を成歩堂のジャケットへと返し、その顔を覗き込む。
成歩堂は俯いたまま、それでも小さく頷いて……淡い笑みを漸く見せてくれた。