【Extra## Collection】

□【徒然なる日々の中で】
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「明日が最終になりますね。どうやら今回も、狩魔さんには敵わないようですが」

「当然だ。私が貴様になど負けるものか」

「言い切るねぇ。でも、ほぼ確実だろうね、有罪」

「…ですね。あれだけの証拠を提出されたら、迂闊に反論すら出来ません。依頼人も半ば諦めてしまっていますし……辛いところですよ、弁護士としては」


そんな呟きに、ボクは何となく思う。彼は此処に居ちゃいけない部類の人間なんじゃないかな、と。

理不尽を理不尽だと言える強さを『正義』と呼ぶ。今の法曹界にそれが残っているならば、彼も此処で楽しく生きてゆけるだろうけれど。

逮捕は必ず立件へ、立件は必ず起訴へ、起訴は必ず有罪へ。これが今のリアルな法曹界。

警察・検察・裁判所―――判決が下り、前科持ちか刑務所行きとなるまでには、誰しもこのルートを経由する。
そして当然この機関全てにも、人を疑う事に対してリスクがある。

警察は容疑者を立件にまで至らせないと、誤認逮捕として組織内部で誰かが責任を負わなければならない。
検察は立件されたものを案件として起訴し、それが有罪に至らないと、担当検察官の各種査定に響く仕組みが存在する。
裁判所はそれらを総括している分、責任を負いたくない連中とロハで上手くやっている。楽に白黒確実な結果を数多く熟すことで、安定した道が開けるというわけだ。

法を作るのも人間なら、罪を犯すのも人間で、それを裁くのも人間。
だから当然、地位や名誉や出世や金なんかの個人的な理由が絡んでしまうのだ。

それが世の常というものらしい。
もし、法を作り上げ裁きを下すのも神であったのなら、こんな柵もなく公平であるのかもしれないけれど。

ついでに、救えない理由の大半が実は狩魔くんが捏造したものだと暴露したら、純粋真っ直ぐ君な彼は、それを糾そうとするのだろうか………



―――ピリリリ…!



少し機嫌が良くなった狩魔くんの懐から、耳障りなポケベルの呼び出し音が鳴る。
少々席を外すとだけ言い残し、狩魔クンは公衆電話のある方へきびきびと歩いて行った。

その薄い背を目で追いながらボクは思う。
ああ…今夜もまた別の誰かにその身体を預けてしまうんだ、と。


「巌徒さん」

「―――ん?」

「ひとつお聞きしたい事があるんですが……いや、しかし――こんな事を尋ねていいものなのか……」

「アハハ!勿体振らなくてもいいよ、言えば?」


黒フレームの眼鏡に不釣り合いな苺ショートを目前にしながら、信ちゃんが話し掛けてきた。

彼が語尾を吃らせる時は大概、プライベートな話と決まっている。
小煩い説明が得意なわりには、自分を表現することが苦手な男なのだ。



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