PINKCAT2

□Too,Much
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【Too,Much】






土曜の夜のディナーには、必ずと言っていいほど最後にクリームがたっぷりと乗った洋菓子が出てくる。

冗談抜きでそれは毎回とても美味しい。
でも、フォークを握る手の動きは鈍く、中々進まずにいる。

それを食べ、珈琲を飲み干してしまうと、僕は遊び馴れたオモチャみたい に玩ばれる事になってしまうからだ。


「ケーキはもう、飽きちゃったのかな?」

「え……いや、あの……そんな事は―――」

「ふぅん……じゃあ、来週は趣向を変えてみようかなァ……」


不思議な香りのする外国産の煙草に灯を点して、クライアントの目が孤を描く。

その見馴れてしまった表情の前で、毎回がソリティアのように、僕の言動や仕種ひとつが今夜の升目を開く。
だからやっぱり僕は今日も言葉を濁すばかりで、まともな会話をする余裕なんてなかった。

好物を前にしても、僕はずっとこんな感じ―――生クリームをたっぷり飾ったナポレオンケーキも、その一口づつがカウントダウンに繋がる。

最後に口にした苺は、生クリームに塗れて甘酸っぱかった。
唇に付いたクリームを黒革の指先が掠め取り………僕はまたシーツの海原へと誘われていった。








―――また、土曜日がやってきた。


余白の美を表現しながら堆く盛られた料理の数々を胃に流し込んで、何時ものようにボーイが最後のデザートを運んできたのけれど。


(あれ……?ケーキじゃない……)


皿の上に乗せられていたのは、南国の香りがするフルーツの盛り合わせだった。
しかも、ボーイはクライアントにも皿を置き、その上に乗っていた物に僕の視線は釘付けとなる。


(?……どう見てもリボンだけにしか見えないよなぁ………)


クライアントの皿の上には、少し幅の広いリボンでできた花が乗せられているだけ。
これには何の意味があるのかと、僕はやや暫く考え込んだ。

役目を終えたボーイは丁寧に一礼して部屋を出て行ったけれど、何故かワゴンを置き去りにしていた。
何か変だなとは思いつつも―――下手に尋ねでもして酷い目に遭いたくなかったから、やっぱり黙り込んだままで、取り敢えず珈琲を口にする。

すると、クスクスという笑い声と共に、クライアントは僅かに黒革を鳴らして、僕に語りかけてきた。


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