【Extra## Collection】
□『SEE-YA....』
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たかが 愛に寄り添い
たかが 夢に連れ添い
何のため 傷ついてゆく
…されど 愛に許され
…されど 夢に救われ
ずっと、迷いながらも
歩いてゆこう――――
【SEE-YA....】
〜Private Room
Last Truck〜
―――特定収容所
狩魔縁の家具は昔と何ひとつ変わりなく、英国調の寝具も、理路整然と列ぶ古書も、高貴な薫りを生む白檀の杖も―――そこには現在の御剣を育んだ全てがあった。
御剣は小さな樫の椅子に腰掛け、師である狩魔が横たえるベットの脇に鎮座している。
(先生………)
今朝からその眠りを見守り続けていた。
ベットの端に列なる医療機器が無数の線を延ばし、狩魔の身体の至る所に繋がれている。
心臓の鼓動を表すモニターのからは光の足音。
黄の液体は絶え間無い滴を落としながら、その細い手首に命の糧を与えていた。
――そろそろ、片方向の点滴薬が絶える。
ベットサイドに置かれたインターフォンにと手を延ばし、それを外部に待機している医師に告げようとした時だった。
「誰かと思えば……怜侍か―――」
「先生………」
血の気の薄い表情の中にあって、それでも未だ般若のように鋭い眼光が御剣を捕らえた。
御剣は延ばした手を戻し垂直に立ち上がると、狩魔に深く一礼を捧げる。
狩魔はフン、と鼻でそれに応え、御剣から視線を逸らした。
「貴様は……厳徒から逃げようとしたらしいな」
「―――はい」
「何故か。完璧に答えよ。」
『座れ』とジェスチャーする細い手先の動きに合わせ、御剣は椅子に腰を落とす。
揺れる前髪の隙間から見える狩魔の横顔を見つめ御剣は僅かに躊躇いながら―――しかしクリアに答えた。
「狩魔の誇りを守る為……そして」
「……………」
「人を…愛してしまったからです、先生―――」
「……愚か者めが」
フン…と嘲笑し、再び狩魔は瞼を閉じ眠りへとつく。
それ以上の言葉は不要だった。
青年期から連れ添った御剣には、狩魔のその一言が何を意味するかを理解していたからだ。
(せん…せい………)
狩魔は、御剣を許したのだ。
その嘘偽り無い想いを。
それは師「狩魔 豪」が、御剣へと贈った最初で最後の『許し』だった。
扉のノック音と共に、狩魔の延命の為だけに登用された医師が二人の間にと立ち入る。
御剣は沈黙し、医師が交換する命の糧を眺めながら独り、呟く。
【完璧なる孤高で在れ。
さすれば誰も貴様を
蝕む者は無い】
今宵の、月のように――――。
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