【Extra## Collection】
□SLOW-SKY
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――クライアントは、たまに不思議な話しをする。
とても遠い目をして、表情を無くして。
何かを悟ったみたいに、空を見上げながら。
「若いころはさ、自分で人生を切り開いてやると自分に言い聞かせてたよ。太陽が輝かない、こんな世界から出るんだって、自分に言い聞かせてたなァ…」
過去を語っているのだとは思う。でも、それはとても難しい世界の話しで。
「なのに、人生は短くて日の出を見るのも待てないから、立ち止まれないんだ。」
この人は、何故にこんなにも心が病んでしまったのだろう。
そして……
――本当は、何を求めているのだろう……。
「ボクはね、自由の翼で漂いながら、その日の嵐を離れ、明日の黄金の原へと乗っていく事にしたんだ。
でもそれは、集めた美しいモノ達が錆ゆく旅でもあるんだよ」
こんな話しを聞く時にだけ……目の前にある彼の背中が、とても儚く、小さく見える。
「欲しい色を全て、自分のものにしたら――ボクは疲れた頭を休ませようと思う。
…なのに、人生は短くてねぇ……夕日を見る事も待ってはくれないから立ち止まれないし、休めないんだ。」
僕は、そっと尋ねてみた。
【それは――叶うんですか?】
「そうだなァ……。あの雲の陰の向こうか、空に向かって虹の終わりが見つかったら…かな?
だってボクには、後ろを振り向く理由が、ひとつも…ナイ……」
くるり、と振り向いた表情は、既に何時もの『満面の笑み』だった。
「ン!じゃあ行こうか、なるほどちゃん!
天国に背中を向けた、冷たいアスファルトと鉄の街に……ね」
それをゴドーさんは『笑顔の仮面』だと、言った。
笑顔を目前にすれば人は、『敵意』や『悪意』を喪失させるからだ、と。
……でも、僕は思う。
果たして本当に……それだけの理由なのかと。
黒革の手袋で隠した、土気色の手も。
時折垣間見る、残忍な表情も。
とても哀しく見えるのは、僕だけなのだろうか――
#?【SLOW-SKY】
―――End