【Extra## Collection】

□SLOW-SKY
1ページ/2ページ



――クライアントは、たまに不思議な話しをする。

とても遠い目をして、表情を無くして。
何かを悟ったみたいに、空を見上げながら。


「若いころはさ、自分で人生を切り開いてやると自分に言い聞かせてたよ。太陽が輝かない、こんな世界から出るんだって、自分に言い聞かせてたなァ…」


過去を語っているのだとは思う。でも、それはとても難しい世界の話しで。


「なのに、人生は短くて日の出を見るのも待てないから、立ち止まれないんだ。」


この人は、何故にこんなにも心が病んでしまったのだろう。

そして……

――本当は、何を求めているのだろう……。


「ボクはね、自由の翼で漂いながら、その日の嵐を離れ、明日の黄金の原へと乗っていく事にしたんだ。
でもそれは、集めた美しいモノ達が錆ゆく旅でもあるんだよ」


こんな話しを聞く時にだけ……目の前にある彼の背中が、とても儚く、小さく見える。


「欲しい色を全て、自分のものにしたら――ボクは疲れた頭を休ませようと思う。
…なのに、人生は短くてねぇ……夕日を見る事も待ってはくれないから立ち止まれないし、休めないんだ。」


僕は、そっと尋ねてみた。

【それは――叶うんですか?】



「そうだなァ……。あの雲の陰の向こうか、空に向かって虹の終わりが見つかったら…かな?
だってボクには、後ろを振り向く理由が、ひとつも…ナイ……」


くるり、と振り向いた表情は、既に何時もの『満面の笑み』だった。


「ン!じゃあ行こうか、なるほどちゃん!
天国に背中を向けた、冷たいアスファルトと鉄の街に……ね」


それをゴドーさんは『笑顔の仮面』だと、言った。

笑顔を目前にすれば人は、『敵意』や『悪意』を喪失させるからだ、と。


……でも、僕は思う。

果たして本当に……それだけの理由なのかと。


黒革の手袋で隠した、土気色の手も。
時折垣間見る、残忍な表情も。


とても哀しく見えるのは、僕だけなのだろうか――







#?【SLOW-SKY】


―――End
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ