【Extra## Collection】

□Darkness of the mind
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〓Darkness of the mind



――通してあげてよ…


珍しく、神ノ木ちゃんが訪れた。ココに来る時は大概、彼が何かを嗅ぎ付けた時。

そして、罠に掛かった時、だ。


「あぁ、どうしたのかな?随分と……ザンネンそうなカオ、してるけど?」

「―――何をした」


ココに足を踏み入れた途端、彼の気迫立った『憎悪』がピリピリと大気を震わせた。
それがとても心地良くて、少しだけ…ボクは笑う。


「ン?意味がよく解らないなァ。ボクは色々熟すからさぁ…イチイチ覚えてナイんだよねぇ」

「アンタの馬鹿げた【神の真似事】にあの二人を巻き込むなと言ってるのさ」


―――そう。
いいねぇ、神ノ木ちゃん。キミの鼻は、とても鋭い。

神の盃に注がれた葡萄酒も、キミには只の泥水でしかなかったみたいだ。

懐かしいよ……実に。


「なるほどちゃんの事かな?もしかして?」

「過去を殺すだけじゃ飽き足らねェのか?アンタは未来までも腐らせる気か―――クソ野郎」

「上手い事言うなァ……でも少ぉし、間違ってる」


過去を殺す、だって。
ああ、だからキミはまだまだ『若獅子』なんだよ?

漲る血の色すら見えなくなって、何を夢見ているんだろう。

何時だって天使と悪魔は背中併せで、この摩天楼に蠕いている。その鋭い牙で、それを噛み殺すつもり?

若いなァ……でも、それは原罪に価、スル。


「じゃ、聞いてみるとイイ……なるほどちゃんに直接、さ。」

「……………。」

「キミが目を掛ける位だ、ボクが気にしないワケないじゃない?」

「虫酸が走るぜ――」

「忘れちゃったの?ボクがキミを手に入れた、理由」


その『憎悪』や『偽善』や『欺瞞』―――今よりも若いキミを見てきたボクは、その青臭い輝きを実に愉快だと思った。

だから、キミの過去を殺してあげた。
際どく似せるならばそれは要らぬモノ、だったから。アーモンドの香りがしたんじゃないかなァ……アレは。


「ボクに似てるんだ、キミは。」

「クッ…!未来のオレはアンタだと?酷ェ言い草だ……」

「ああ…そうだ。ポイントが貯まったキミに、素敵なプレゼントをあげなくちゃ、ね」


若い獅子が―――もっと成長するように。



「キミの母親は『待子』だったよねぇ」

「―――!!」

「そしてキミは母親に殺されそうになったカワイソウなコ、だった……」

「―――黙れ」

「それは立派な正当防衛だった……幼いキミは必死に生きようと、したんだからね」


ねぇ、神ノ木ちゃん?
ボクはキミの倍近く生きてきたんだよ?
そして、その過去を知る力も葬り去る力も手に入れた。

蠕くような血の流れが、キミとボクの似ている証。
『恐怖』を持つ、若い頃のもう1人のボク―――キミはそれを演じる『駒』なんだから。


「ついこの間だったじゃないか……そのリバイバルを演じたのは、さ―――神ノ木 荘龍?」

「黙れ!!!」

「キミの『心の闇』、だよ」


あの女を殺した瞬間のキミは、酷く安堵したに違いない。
ああ、ボクには予想がつくんだ、馬鹿、みたいにね。

「キミがボクに勝てない理由はソコに、ある。」

「…………。」

「だって、キミは『恐怖』してしまったのだから……」


……人間の精神は脆い。

キミはその『恐怖』から精神を守る為に、あの時同じ場面を繰り返したんだ。

自分を愛してくれる女性を失って、精神の崩壊を防ぐ為にソレを『憎悪』へと変貌させて。

キミは、必死に生きようとした……あの頃と同じに。


「ボクには『恐怖』がナイ……だから、だよ」


ボクは椅子から立ち上がって神ノ木ちゃんの脇を通り過ぎる。

扉へと向かえば、丁度お互い背中合わせになって。


ホラ、天使と悪魔はこうして何時も背中併せ……。

その若さで、二人を守ってみるとイイ。

ゲームはまだ、始まったばかりだよ……神ノ木ちゃん?


「……どうやらアンタは長生き出来そうにねェぜ?」

「…そう?黒い龍が、そう言ってるのかな?」

「……死神が囁くのさ…『神を真似る愚者には稲妻が墜ちる』、となァ…」

「メシアが現れるとイイね、神ノ木ちゃん…」


――そう。
これは【神の真似事】なんかじゃあ、ない。【巡る行く末】を愉しむ為の箱庭だよ。

あの二人を守りきれたら、キミの勝ち。

キミは、勝てるかな?
この、ボクに―――。



##covered story
――――End
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