【Extra## Collection】
□idea―イデア―
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【idea―イデア―】
〓Eternal delusion〓
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【いつも少年は、水を探していた……追い求める事の無力さを知っていても独り、ひび割れた川を立ち止まり、ずっと見つめていた――――】
書籍の薄いページを手繰る指が、そこで動きを止めた。
その一節に目を離せなくなったのは、己の足元に絡みついていた子猫の姿を想起してしまった故である。
また、こうして春は巡り訪れるというのに―――己にとって現在はまだ、永く辛い冬の中に在った。
(クソ………)
時はゆっくりと流れはしても、物事は常に変わってゆく。
廻る日常の中で、この嵐が近付いている事を己は知っていた筈だった。
知っていても……それを抱き上げ、教え説く術を為せぬままに居たからだ。
最悪とも云えるこの現状は、その吃音を繰り返したが為のツケ―――今正にそれが巡り廻ってきたのである。
「チヒロ―――オレは道を誤っていたのかい…?」
地裁の資料室から眺め見る霞み繋かった空の果てに、もう二度と出逢ぬ魂の伴侶へ――祈るように、そう問い掛けてみる。
知る物全てが集約を果たした今、それを手放し見殺しにする事は絶対に出来ない。
新たな日々と手段が必要となったからこそ、己は自由と引き換えに更に深い闇へと身を投じる事にしたのだ。
己は、この季節までをも変えてしまおうとする異教徒政治家達を喜ばす気は更々ない。
そして、この馬鹿げたオペラの創造主―――神を気取る、あのイカレた権力者を引き裂く機会を窺っている。
挟む栞の蒼さと、見えぬ色が咲き誇る季節に。
Love me……
Help me――――
出口のない闇の迷宮に流れる唄は、女神の抱く仔猫の切ない啼き声。
閉じた書籍を手に、様々な想いを巡らせながら、再び闘いの中へと身を馳せる―――。