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□涙のあとに降る夢は、君
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夢を見た。






「何、どんな?」

「・・・笑わない?」

「笑うような夢なわけ?」

「・・・」




シンプルで落ち着いた色合いで、雑誌が数冊床に散らばっているここが私はとても好きだ。そう、それはもちろん叶の部屋。

叶は今まで着ていた制服を脱ぎ捨てクローゼットの中を漁っている。私はそんな叶の姿を見ながらベッドへと腰を下ろす。ふわりとやわらかく重力が沈む。




「叶が歩いてて、私はそれを見つけて、追いかけて」

「ん」

「叶って呼んでも、何度呼んでも、叶は振り向いてくれないんだよ」

「何だそれ」

「叶、最悪」

「しらねぇよ、バカヤロ」




叶の後ろ姿がそう言った。何か、またたくましくなったななんてその背中を見つめながら思う。
その肌の上を紺のポロシャツが覆って、白いジーパンに溶け合うように色が重なった。




「それでね、やっと振り向いてくれたと思ったら」




そして叶が私の隣に座った。ほんの少しだけ距離を置く叶のことは良くわかっているつもりだ。
私はそんな叶に小さく苦笑しながらも、次の言葉を待っている叶に続ける。




「叶、“もう終わったんだよ”。そう言って、行っちゃって、終わり」

「・・・」

「お別れの、夢だったよ。・・・っ・・・」





ゆっくりと、一筋だけ涙が頬を伝う。どんなに怖い夢でも私泣いたことなんてないのに。
かっこ悪いと思っても、涙が零れてしまったはきっと。




「お前、何いきなりそんな夢見てんの」




叶が私の頬の涙をやわらかくぬぐった。優しい指先が今はこんなにも愛おしくて、そして怖い。




「昨日・・・友子が別れたって泣いてて・・・」

「うん」

「別れることってあるんだなって思ったら、なんか・・・、」

「・・・ばーか」




うん。馬鹿なことだと思う。でも現実にやっぱり別れることはあるのかと思うと怖くなる。
今私がこんなにも叶を好きで、叶も今私を好きでいてくれてももしかしたら明日にはそんな気持ちこれっぽちもなくなってしまうなんてことがあるのかもしれないなんてそんなことを思う。




「・・・泣くなよ」

「・・・うん」

「・・・俺しか無理だろ、お前と付き合えるヤツなんて」

「・・・、うん」




頬を撫でる手はとてもたどたどしい。けれどそれ以上にとても優しかった。きっと目を開ければ照れた叶が映って、そんな私の視線に叶は驚いてこの手を離してしまうのだろう。
今は、私この手がほしい。だから目を瞑ってそっと叶の手のひらに預けた。



ありがとう。わかってる。こんなくだらない不安なんて叶のほんのわずかな優しさで一気に吹っ飛んでしまうことを私は知っている。
もう、もう大丈夫。今叶が隣にいるのは紛れもなく現実で、夢なんかじゃ、ない。






「・・・俺、お前のこと、好きだよ」






私の頬に叶の唇がそっと触れた。




















(今日はきっと君と笑いあう夢を見る)











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