女王陛下と呼ばないで
□女王陛下と呼ばないで
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「あら、桜ちゃん☆」
扉をくぐると早速マネージャーの雪(ユキ)ちゃんが気付いてくれた。
「久しぶり」
「本当に久しぶり。クラスも違うから中々会えなかったもんね」
僕に近づきながら雪ちゃんは嬉しそうに言う。
陸上部には他にマネージャーはいないから僕の不在がよっぽど寂しかったのかな?
本当に雪ちゃんは女の子らしくて可愛い子だな。
理事役(理事長付き役員)になってから部活に行く度に雪ちゃんはとても嬉しそうにしてくれる。
「去年ぶりかな?三学期も春休みも理事役が忙しそうだったもんねぇ」
「受験の時期だからどうしても忙しくなっちゃうんだ」
僕が任された理事役というのはその名の通り、理事長に付いて一緒に経営する役員のことを言うんだ。
生徒が学園の経営をするのは変な話しだけど、理事役はただの生徒がやれるわけではないんだ。
理事役のメンバーは大体が経験者。
つまり、
全員が自分の会社を一度は持っている。
現在進行形ではないけど、僕も親の仕事を手伝わされていたことがある。
こういった経験者である生徒を選んで学園経営をしている。
そして、生徒を使うことで汚れない経営をするということが王学のモットーである。
まぁ、生徒達の社会勉強の意味合いも含めて。
だから特待生選びなどで受験シーズンはとても忙しい。
おかげで部活には一切顔を出せずじまい。
授業も免除されるから三学期は仕事漬けでクラスにも顔を中々出せなかったし…
少し前の疲れる状況を思い出していたら視界の隅に凄い速さで走っている人がいる。
この走りも久しぶりに見るな。
たなびく髪。
躍動を感じるその長い手足。
何より、真っ直ぐ前だけを見ている澄んだ瞳。
彼の姿を見る度に陸上部に帰って来たという感じがする。
ただいま。
「部長また速くなったでしょ?」
「えっ!?」
いきなり話しかけられたからびっくりした。
もう飛び上がらんばかりだった…。
そんな僕に雪ちゃんは人が悪そうな笑みを浮かべていた。
「誠司(セイジ)がどうしたの?」
内心の焦りを一生懸命隠しながら雪ちゃんに聞いた。
そしたら雪ちゃんはまた嬉しそうに喋り出した。
今度は本当に嬉しそうな笑みで。
「一年生が入ったことで良い刺激になったみたいね」
「へぇ。今年の一年生はどう?」
僕は気になっていたことを聞く。
「豊作よ。特に短距離がね★」
短距離ということは彼と一緒だ。
なるほど、刺激されるわけだね。
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