おはなし

□襲う、襲われ2
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人の肉なんてゴム食べてるようなもん。味なんかしないし煮詰めれば硬くなる。塩コショウで味付けしても悪くなるくらいならぼくは生の方が良い。
それに味が無いからこそ美味しいわけで不満ならそれに血をかければ良いことだ。
柔らかい肉が好きだな。

内臓にとって人の身体は入れ物だ。でも外側よりもずっと綺麗だと思うよ、特に子供は…あ。
ただ言ってみただけさ。ただ酒もタバコもしない人の内臓に巡り会いたいものだね。
艶々でぴかぴかな、新鮮な内臓。うふふ。

でも残念ながらぼくの足元で事切れている奴は汚れていた。
今はノラと言う女性の迷いの森にいる。ずっと居続ければ目も流石に慣れるもん。真っ暗なんだけど星たちの僅かな明かりでなんとかなった。
この森には不思議な魔力があるのか村人が次から次からやって来ては迷ってる。ぼくは必要以上な殺生はしないんだけど…。
こいつはとても運が悪い。

漆黒の闇にずっと居続けると人は精神が可笑しくなってしまうらしい。残念ながらここは朝が来ない。ぼくも初めて来たときに思い知らされたけれど森に入った瞬間引き返せない仕様になっていた。何処へとも無くワープさせられるのだ。
ここはもしかしたら森と言うよりも樹海かもしれない。
こいつは奇声を発しながらぼくに向かってきたんだ。見えていたかどうかは判らない。
でも何とはなしに愛用の妖刀ムラマサを横向きに、地面に水平に刃先をあいつに向けて構えたんだ。
そいつは構わず走り抜けぼくが僅かに力を入れたら首はスッパリ跳んで、どうと倒れた男の身体はすかさず縦に真っ二つ割れた。
血飛沫1つ起こさずに、おびただしい血が滝のように流れ土がどろどろになっていた。
切り口は綺麗でそして綺麗に収まっていたけれど肺と腎臓はとても綺麗とは言えず、5メートル先に跳んだ頭は割れてなかったけれど口から大量の泡を吹いていた。
「一度気が触れたら中々戻らないって言うからな〜」
身長は170くらいのハトの足元からうさぎがひょっこり現れた。ぶるぶる震えている。
「じゃ、そゆことで!」
喋るうさぎはぴょんぴょんと彼方のほうへと跳んでいく。
「食事の度に行っちゃうんだからな。うさぎは臆病だ。

最初のやり方はサンマの内臓取りと同じ、不要なものを最初に取り除く。既にこいつは真っ二つだからやり易い」
最早声にも顔にも感情が無い。しかし彼にとっては感情が無くなれば無くなるほど感情が昂っている証拠だった。

はは。
ははは。

彼の口許からはよだれが止まらない。死体には手を付けず土を含んだ血だまりに頭から突っ込んでは喉を潤していた。

それを木の陰から覗く白うさぎは心底怯えていた。
「気が触れてるのはキミのほうじゃないか…うわっ」
うさぎの身体が持ち上がった。
「あら、可愛いうさぎね。私一人で心細かったのよ、よかったあ」
と手を合わせる。
(ちょちょっとまってよ)
声からして女性、彼女はうさぎを抱き抱え歩き始める。しかしあの光景でうさぎは抵抗する気も無く無抵抗に大人しくなっていた。
(キミの居場所はいつでも解るから時が来たらまた来るね)

その声が未だ死肉を貪るハトに聴こえたのかどうか?
それはハトの中の小さなハトがハッキリ耳にしていた。
(何も食べていなかったから、そうなっても理性って効かないものなんだね。うさぎ、またね)


ぼくは我に返った。頭を触ったら髪の毛がかちかちに固まっていた。手を見たら赤黒い。あの死体が無い、跡形も無かった。
「不覚」
前例が何度かあったからある程度の想像はつく。予定では中身だけ綺麗にして肉は後で食べようと思ってたのに。相棒が持ってる袋に詰めて。
「情けない。……うう、あ!しまったあ〜…。クソ〜いつになったら抜けられるんだよこの森は〜〜〜、これ以上居続けるとぼくのたれ死んじゃうよ〜〜〜!」
柄にも無く彼は壊れた。この現象が極稀だと言うことを読者に分かって頂きたい。本当に珍しい。
あ、さっきも壊れてましたね。
訂正です。食事以外は壊れたことが無い、と。

あのうさぎがいたから彼は出口の印である外の光を発見することが出来た。しかし一歩道を間違えると別のところへワープしてしまう、だから彼は人を仕留める時も極力動かなかった訳だが。実際彼は度々人を逃していた、それくらい正解ルートは繊細でさっきの食事がこの森に迷い始めて最初の奴だった。
何度あのログハウスに戻ったか。何故かワープの度にここへ来る。そして今も。
知ってか知らずか一人の女性が扉の前で待っていた。
「あ、また来たの?懲りない人ね……っ」
ノラは踵を返して扉を閉めた。
「あ」
嫌われちゃったかな?こんな姿だもんね。臭うしボロボロで血まみれだし。
再び扉が開きずんずん進めば、ノラは水がたっぷり入ったバケツを頭から掛けた。
「どして?」
泣き笑い状態のハトの腕をひっ掴んでノラは家に入れ「こんな生気の無い目見てられなかったのよ」といい今度はノラがハトを抱き締め、「喉渇いた。この頃ずっと飲んでないの、良いでしょ?」と言いつつハトの首筋をさらけ出した。
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