おはなし

□※食愛。
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「ああん」
 女の腹が激しく波打つのがわかる。
 私は腸をうどんのようにずるずると吸っていた。
 わからない。
 ただ痛みを快感に変換しているのだけはわかる。
 しかし私は彼女のことが好きだ。この黒髪、この表情、象牙のように白い肌、そして先程聴いたばかりの美しい声。品のある声。
 ただ私も己の欲望には抗えない。
 いつも空腹ギリギリまで我慢するあいつを今は憎いと思った。それはつまり若い自分自身なのだが。
 だだっ広い草原、あまりの空腹で生き倒れているとき手を差し伸べてくれたのがこの女だった。
 夜中、月明かりだけの世界でのことだった。
 私は顔を見るでもなく手に掴まり起き上がり勢いのままに女の腹を裂いた。
 女は声もなく後ろに倒れ今に至る。

 私たちはお互いに唇を合わせ抱き合っていた。
 女の腹部には既に腸は無い。
 それでも女は尚も私に舌を絡ませてくる。
 そして無意識的に考えてなかったあることに思い当たる。
 私は女の熱い唇から口を離し聞いた。
「もしかして、ゾンビ、なのか?」
「いきなりなによ」
 女は私の首筋をべろおと舐め、吸い付き、また舐める。
「いや、ゾンビな訳が無いか。内臓は腐ってなかった」
 だったら彼女は一体何なんだ!?
「わたしはただの痛みを感じない人間なだけよ」
「神経が麻痺してるのか?」
「そうよ。だから火傷とか切り傷とか骨折とかしても痛みを感じないの」
 そう言いながら女が私の胸元に唇を這わせた。ちなみに私は服を着たままだ。
 だがその服から白い煙が出て土気色の肌が露になった。
「だとしたらおまえの身体は既に傷だらけのぼろぼろな状態でいるはずだ。痛みを知らないのだから危険なこともわからないだろう?しかし私がおまえの服を剥いだときは私が作った傷以外は無傷だったぞ、何故だ?」
「わたしだってわからないわ。わたしは自分の歯を抜くのが癖なんだけれど、いつの間にか生えてるし、熱湯を被る大火傷をして皮膚が溶けてくっついても翌日には元に戻ってるのだもの」
 くっついた皮膚がどうやって元の状態に戻ると言うのだろう?
「だが、おまえの腸はもう戻らないと思うぞ。私が全て食べてしまったから」
「なに、こんなにやってるのに感じないなんて、つまんないわ。…そうね、わたしのお腹、触ってみる?」
「!何だこれは。」
 べっこりと凹んだ女の腹部の内部は奇妙な触手がうねうねと蠢いているかの如くうねり膨らんでいた。
「わたしの細胞によるものかもしれない。失ったものを再生する力がすごいのかも」
 私はその奇妙な出来事にただただ驚くばかりだった。
 そしてそれは元に戻った。
 よくわからないが私は衝動的にその腹部に牙を突き立てた。
「うっん」
 噛み千切り皮膚の柔らかい部分を露出させ、手を使い押し拡げ、舌を使い内部を探る。
 女がまた呻いた。
 実はまだお腹が空いていた。
 私はまたずるずると腸を引っ張り出していった。
 それを何回やっただろう?女はその度に感じていた。
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