そうなのか。そうだったんだ。
強い風のせいで顔にかかる髪。もっと惨めな姿はたくさん晒しているけれど、今だけでも、少しでも、自分の姿を崩したくなくて、耳にかけた。そんなことをしたところで見えないって、わかっているけど。
お互いの息は白い。私達を取り巻く世界は黒かった。午前三時、ミナモシティの海岸で。真っ黒な海が波打つ音を聞いて、自分の鼓動から耳をそらすように。
キスをした。
「ハッピーニューイヤー」
ユウキくんはなんていうこともなさそうに、そう言った。私には、できない。何でもないですこのくらい、っていう風に振る舞うことは、できなかった。何がいけなかったんだろう。色んな気持ちが胸の中で湧き上がり続けて、何か言おうとするたびに、目の前にいるであろう冷静なユウキくんを思っては、口をつぐんでしまう。気がついたら涙がぼろぼろとこぼれて、止まらなかった。でも、きっと、見えないから。こんなに真っ暗な世界の中じゃ、何も見えないから。
「うん、あけましておめでとう」
朝が来たら。世界が明るくなったら、また笑ってみせるから。ユウキくんが好きだと言ってくれた笑顔を、浮かべてみせるから。
今だけ、今だけは、ごめんね。






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