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□事実確認
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「ヒカリって俺のこと好き?」

何気なく、本当に何気なく、まるで今日って雨が降る?なんてことを聞くみたいに、ジュンは雑誌月刊バトルレボリューションを読みながら質問をよこした。
お世辞にもあまり綺麗とは言えないジュンの部屋は日当たりが良いので、寒い日にはだいたいジュンの部屋で二人はダラダラと無為な時間を過ごす。
あまり寒くない日にはきっちり片付けられていたり、そうでもなかったりするヒカリの部屋に集まる。ちなみにコウキが来るときだけ、ヒカリは部屋を完璧に掃除する。
彼は基本研究で忙しい為にだいたいは二人きりなのだが。

「何で?」

彼にしては女々しい質問に、少し驚いてはいたのだけれど、なるべくそれを表に出さないように注意してヒカリは言葉を選んだ。口調もいつもと変わらないように気をつけながら。
ここで、好きだよと言ってしまったら、きっと彼はそっかと答えるだけなのだ。なぜそれを質問したのかも、答えを聞いて何を思ったのかも言わない。ジュンにとっては今日は雨降る?と同一な質問なのだ。
今まで嫌というほど経験したおかげで対処法がようやくわかってきた。

「えー…じゃあいいや」

面倒くさそうにそう言った直後にジュンがいきなり笑い出した。何事かと思えば月刊バトルレボリューションの四コマ漫画がツボに入ったらしい。
さすがに少し腹立たしくなったヒカリが雑誌を引ったくったのにも関わらず、珍しくジュンは怒らなかった。雑誌を取り返そうという意志もないようにヒカリには見えた。

「ヒカリ、質問のことで怒ってんだろ」
「怒ってるってわけじゃないよ。何かムカついた」
「何でって聞かれてもうまく説明できる自信がねえの。ただそれを知りたいって思ったから質問した。こういうことがあったり、こんなことを思ったから質問したっていう経緯が何かしらあるかもしれない。ただ、ほんとにパッと出なんだよなあ」

ヒカリが突然笑い出した。ギョッと身を引いたジュンだが、どうやら月刊バトルレボリューションの四コマ漫画が同じくツボに入ってしまったらしい。
確かに今回のは傑作、今までで一番面白いかもしれないだがしかし。

「ヒカリサン、俺真面目に答えたんだけど。超真面目に!」

マッギョネタはズルいよね、と言って雑誌を軽く投げて返したヒカリを、とりあえず睨みつけてみる。何やら思考モードに入ったらしく、防御力が下がる気配はいっこうにない。しかしうまくきまらなかった!というのは正にこんな感じだろうか。

「私も真面目に考えた」
「あー今考えてたもんな」

俺の攻撃を無視して考えてたもんな。
言ったジュンに攻撃?とヒカリは首を傾げる。

「ジュン、恥ずかしくないの?」
「なんで?」
「だって俺のこと好き?とか」

ジュンから言わせれば、なぜそれを恥ずかしい質問だとヒカリが思うのかもわからない。当たり前のこと、事実確認。ジュンにとってはそんなものなのだ。
それを質問したくなったのは、どうしてなのかよくわからないけれど、とにかくそれが恥ずかしい質問だということは理解できそうになかった。
ヒカリもそれを察したのだろう。ため息をついて前髪を耳にかけると自分の両頬をパシンと叩いた。

「好きだよ。すごく」

少し赤く腫れたヒカリの頬を両手で挟んでぐにぐにといじって遊ぶジュンは、すごく満足そうで。

「知ってる」

あまりにも幸せそうな顔をしているから、つられて笑ってしまった。

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