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□温かい人
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ジュンの家は電気代節約とかで暖房を付けないから寒い。ものすごく寒い。
ヒカリが訪れたときにジュンはマフラーと手袋にもふもふスリッパと今から雪遊びに行くのではないかと思わせる格好で出迎えた。
寒い寒いとうるさいヒカリを黙らせるためにジュンは自分の防寒具を全て着せたヒカリを膝の上にのせて抱きしめた。ベッドのふちに座っているからもし転がっても平気だ。
それ以来ヒカリは何も言わない。
ジュンは恥ずかしいからかと思っていたが、どうも違うらしかった。
ヒカリはこの寒さを打開する策を考えていた。が、こうやってジュンとくっつくのも嫌いじゃない。
ジュンはだんだんとこの空気にたえられなくなり、ヒカリを抱きしめていた腕をはなしてヒカリの髪を引っ張った。
「痛い」
「あ、悪ぃ」
ヒカリの顔はジュンが髪を引っ張ったせいで必然的に上を向き、視界には自分を見ているジュンだけがうつった。
顔が近くて恥ずかしいのと、ジュンの髪が眩しいのとでヒカリは目を閉じた。
その瞬間ジュンの唇がヒカリの額に触れる。
なにが、あ、悪ぃだ。
キスされた額に手を当てると額が熱を帯びているような気がした。
ジュンの体が温かいからかもしれないとヒカリは思った。
ジュンは髪の毛をはなしたもののヒカリの髪の毛を弄ることはやめない。
ヒカリはキスのときにかきあげられて少し乱れた前髪を直して、両手に息を吐きかけた。
「寒い」
「…最終手段だな。ベッドどーぞ」
ヒカリはジュンの膝から降りてベッドの中に入る。
が、ジュンの膝の上よりも冷たい。
もう少ししたら温かくなるかもしれないけれど、今のところただ寒いだけだ。
ヒカリはベッドのふちに座っているジュンの服の裾を引っ張った。
「…一緒に入ろうとか、言わないよな」
「一緒に入ろう。寒い」
ジュンはふうとため息をついたものの布団をめくった。
ゴロンと寝返りをうってヒカリはジュンのスペースを空ける。
ジュンはゆっくりとヒカリに触れないようにベッドに入る。
幼なじみで恋人と言えどまだ早い。
そう自分に言い聞かせて焦っているジュンとは反対にヒカリは平然としていた。
何とかヒカリに触れないように努力してジュンがベッドに入ってすぐにヒカリが熱を求めて近寄ってきた。
ジュンの両腿の間に自分の足を入れて、それから気持ち良さそうに目を閉じる。
ジュンは顔を真っ赤にして、今すぐベッドから抜け出したい気持ちを押さえている。
「これつま先がすんごいあったかい」
「俺は太腿が冷たい」
「5分くらいしたら抜くから」
ベッドの中で触れ合うと、ジュンはいけないことをしているような気がする。
ヒカリは全くそれを感じていないらしく温かいジュンの体からせっせと熱を奪っていた。
「もっとくっついてよ」
「いや、これ以上は無理!もういいだろ!俺出る!」
ジュンの顔は耳まで最高潮赤くて、ヒカリは仕方なく足を抜いた。
ヒカリがあんまりくっつかないから出ていかないでとお願いするとジュンはわかったと小さく言ってからヒカリに背を向けた。
ジュンの背中を見つめていたヒカリは、口元に笑みを浮かべると、ジュンの背中を指でつーっとなぞった。
「なんだよ」
あれ。とヒカリは思いながら、ジュンに背を向けて今私がやったのやってと頼んだ。
背中ってくすぐったくなかったっけ。
ジュンがヒカリの背中をなぞると、ヒカリの体は反って、口からはあまりよろしくない声が漏れた。
「な、なんか、ごめんな」
条件反射でジュンが謝るとヒカリはジュンの方に寝返りをうった。
ジュンはまだドキドキしている。ヒカリのあんな声は初めて聞いた。
「ジュンはくすぐったくないんだ」
「全然」
「ふーん」
ジュンは目線をチラチラと逸らしながら、ヒカリにたずねる。
「今のって、気持ちよかった、とか?」
「ばっか!!」
「ごふっ、」
ジュンの鳩尾にヒカリの蹴りがヒットした。
ヒカリはそのまま自分の鞄をひったくるように床から取ると出て行った。
「…あ!」
ジュンの防寒具をつけたまま。