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□どうしたら
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キスをして、それからどうすればいいかなんて何も知らなかった。
ユウキは息の乱れている私をじっと見つめているだけで何かをしようとしてくる様子はない。
ベッドにいるんだから、ここからの流れはやっぱりそういうものをするっていうことじゃないの?
心の中で問いかけてもやっぱり何も言わずに私を見ているだけ。
どうしたんだろう、ユウキらしくない。でも私は何も言わずに待つことにした。
こういうことは男の人から何か言うものなんだから。
私は覚悟ができているから、ここでのキスを受け入れたし舌が入ってくることも受け入れた。それなのにそのまま放置だなんて、ちょっと酷い。

「ハルカ、やっぱ、無理だ」

結局これか。期待した私が馬鹿だったのかそれともユウキの気持ちが萎えたのか両方なのかもうわからないけど、ユウキはそう言った。
無理だとハッキリ言った。
つまり、私は拒否されたのだ。こんなに良い雰囲気でチャンスがある時はもうないかもしれない。それなのに、拒否されたのだ。
いや、拒否されたことよりもユウキが悲しそうな顔をするから私はショックを受けているのかもしれない。

「別に、いいよ」

私はベッドの縁に腰かけた。ユウキも真似をして私の隣に座る。
その肩に頭をのせると優しく撫でられた。
どうしよう、凄く好きだ。どんなに行為を拒否されようともやっぱり好きだ。
頭を撫でてくれるだけで別に良いと思える自分は少しおかしいのだろうか。
ユウキはプラトニックなんだろうか。ずっとずっと私たちはこのままなんだろうか。
そもそも私はどうしてそんなに焦っているのだろう。やっておかないとユウキが離れていってしまうような気がしているからだと自分にはいつも言い聞かせているけど、もしかしたらただもっと近づきたいからだけなのかもしれない。
ユウキが優しく頭を撫でてくれるのと、そんなことを考えていたせいで涙が止めどなく溢れ出してきて急いで拭き取ろうとしたところ、その腕をユウキに掴まれた。

「ほんと、ごめん」

そう言うと私の涙を指で拭った。別にいいよと言ったのに、そんな自分が泣いているなんて恥ずかしい。
ぎゅっと抱きしめられて、そのままベッドに押し倒される。ユウキはそうするつもりはなかったと思うけど、私はユウキの体重に耐えられなくて体をベッドに放ってしまった。
ユウキは私を抱きしめた腕を解除する事は無く、私もユウキの背に両手を回してとにかく抱きしめる。もっと、近づきたい。

「ハルカ、」

耳元で名前を呼ばれてドキリとする。ユウキの息遣いが聞こえる。
もしかしたら心臓の音も聞こえるかも知れない。そう思って耳を澄ましてみたけれど自分の鼓動の音が邪魔で耳に近いユウキの息遣いしか聞こえない。
私が名前を呼んだらユウキはどんな反応をするんだろう。

「ユウキ」

ユウキは更にきつく私を抱きしめた。

「ハルカ、俺はさ、ハルカが傷ついたり痛い思いをするのが嫌なんだ。だから、ずっとできなかった」

私は大丈夫だと言おうとしたのに、出てきたのは涙と嗚咽だった。
理由を知って安堵したのと、耳元のユウキの声が優しかったからかもしれない。
ユウキはまた私の頭を撫でながら、続きを言った。

「でも、そのことでハルカが泣くくらい傷ついてるなんて思ってなかったから。本当、ごめん。俺は勝手にハルカの気持ちを想像して勝手に傷つけてたんだよな。本当にごめん」

そんなに謝らなくていいのに。
でも言葉はやっぱり出てこない。私は赤ん坊のようにわーわーと泣きわめくことしかできない。
今度はそんな私の涙を舌で上手に舐め取る。

「だから、泣かないでよ」

少しづつ私の嗚咽が収まっていくのと同時に体はどんどん火照っていく。
ユウキに与えられる快楽は、ユウキからだからこそ気持ち良いのだし、だから私は嬌声をあげているのだ。
ユウキの優しい手がいつもより数倍優しく、物凄くデリケートなものを扱うように体を撫でる。
いつも頭を撫でられてもなんともないのに、私はその手に反応してしまう。今頭を撫でられたら私は感じるんだろうかなんてことを考えていると、急に頭が真っ白になって考えるということができなくなった。


「ユウキは優しすぎるよ」

「何?もっと激しいのが良いってこと?」

冗談混じりにそう言ってユウキは軽く笑った。

「いや、私が悪い人に見えるなぁと」

「ハルカが良い子なのは俺が知ってるから大丈夫」

「あっそ」

私は手にしているコップに入っている冷たい緑茶をぐいっと飲み干す。
そのまま隣に座っているユウキの腕をぎゅっと掴んで擦り寄る。

「よしよし」

そんなことを言いながらユウキは頭を撫でる。
それだけで私は泣きそうになる。

「ユウキ、ありがとう」

「いえいえこちらこそ」

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