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□旅の終わり何かの始まり
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「明日から、学校だね」

ハルカはコントローラーを握っている手を動かしてテレビに映っているゲーム画面をぼんやりと見つめながら素っ気ない口調で言った。
ユウキは一瞬だけハルカを見たが、ハルカの無機質な顔はテレビを見ていてそこからは何も読み取ることができなかった。

「そうだな」

それだけ言ってゲームに集中する。二人に重く冷たい空気がのしかかった。
ハルカは思い出していた。
ホウエン地方を駆け巡ってジムバッヂを集めて、チャンピオンに勝った。
アクア団とマグマ団との戦い。あんなに怖い思いをしながら戦ったのは初めてだった。負けたら殺されるんだとわかっていたから。
それでもいつも自分の隣にはユウキがいて、辛いことや悲しいことがあって旅を投げ出そうと思った時でさえもユウキがいたから乗り越えられた気がする。
ユウキが隣にいない時だって、ユウキとの馬鹿な会話を思い出すだけで自然と笑みが漏れる。

「あ、負けた」

YOU LOSEという文字が目に入ってハルカは我に返った。
ユウキは対して嬉しくもなさそうにゲーム画面をじっと見つめていた。
ハルカもユウキも、伝えようと思っていることはあるのにそれを伝えることがまるでいけないようなそんな気がしていて口を開くことができなかった。

「学校って人がいっぱいいるよね」

ハルカの言葉の本当の意味をユウキは理解したつもりでいた。
だから、一番ハルカを傷つけないような言葉を選んだ。

「…そうだな」

ユウキはハルカと共に旅をして、ハルカのことを解っているつもりでいたのかもしれない。
だから、理解しようと努力することをやめて自分の頭の中で考えて答えを出すことにしていた。
どんなに一緒にいたって他人は他人。ハルカはそう思っていたから、ユウキの言動や仕草からだけでなく直接ユウキに聞いてから判断することにしていた。

「ユウキは、転校生だね」

「うん」

ユウキはきっと人気者になる。頭もいいし、面白いし、カッコいいし。
今までハルカだけが知っていたユウキの色んな表情なんかも色んな人が見ることになる。
今まで二人っきりだったのにこれからはきっと別々の道を歩むことになるのだろう。
ユウキは男子の友達を作って外で元気に遊んで、もう私と遊んでくれたりはしないんだろう。
ハルカはそれを考えるたびに胸の奥が苦しくなった。
でも、今までの旅は本当に楽しかったからこれくらい我慢しないと。
そうは思っても、やっぱり難しい。

「ユウキなら、大丈夫だよ」

「な、何だよ。ハルカに心配されなくたって大丈夫だよ」

「うん、そうだよね」

もっとずっと旅をしていたかった。ユウキもそう思ってくれているだろうか。
勇気を出して、聞くんだ。

「旅、楽しかったね」

怖かったから、こんな遠まわしな言い方になってしまった。でも、ユウキならわかってくれる。
ハルカは心の中で必死に祈りながら、テレビをぼんやりと見つめているユウキの顔を見た。
ユウキはハルカの視線に気がつくと、すぐにハルカの方を見た。
目と目が合ったのに。

「まぁ、結構大変だったけどな」

気持ちは、伝わらなかったみたいで。
目頭が急に熱くなって、急いで立てた膝に顔をうずめる。ユウキはまだ自分の方を見ているのだろうか。

「でも、楽しかった。もっと旅してたかったかな」

顔を上げると笑っているユウキの顔がぼやけた目に映った。

「ハルカお前泣いて……」

ハルカは抱きついた。
ユウキはまるでハルカがそうしてくるのが解っていたみたいに、ハルカの背中に手を回してぽんぽんと優しく叩いてやった。
これならきっと、二人が学校に行ったって離れることはないんじゃないかとハルカは思った。
どうしてそんな風に思えるのか自分で自分が不思議だったけど、ユウキはそんな人じゃないと自分は信じていた。
もしかしたら、初めて出会った時から信じていたのかもしれない。

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