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□はんぶんこ
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あ、倒れる。思った瞬間に見慣れたピンクの髪がすっと動くのが見えて。その途端に張り詰めていた気持ちの糸が切れたような。クラクラしていてまともに機能していない頭の中でそんなことをぼんやりと感じるくらいに、彼の存在が自分を支えてくれていると知った。目が覚めたときには、もう忘れているかもしれないけれど。

「神童…ッ!」



最近よく見る天井。小さな黒い水玉がまばらに模様を作っている天井。白いベッド、布団、枕、シーツ。そして横を向けば、ピンク色の髪と水色の瞳。本当に最近はよく見る。そんな組み合わせの色。

「よかった…目、覚めたんだな」

安堵の表情を浮かべた蘭丸に笑みを作って返すと、神童は目線を天井に戻した。
呆れていないだろうか。自分の体調管理すらきちんとできないのに、サッカー部のキャプテンだなんて。自分が情けなくて笑えてくる。
こんな調子でフィフスセクターに打ち勝つことができるのか。

「ここ最近ずっと具合が悪そうだったよな。寝不足なのか?」
「確かに、寝てないかもしれない」
「ダメじゃないか。お前が崩れると、みんなも崩れる」
「わかってるさ。…でも、」
「しーんーどう!倒れるまで頑張ってもいいんだ。真面目なお前に頑張るな、なんて言えないからな。だけど、せめて俺を頼ってくれよ。お前の苦しみも痛みも不安も全部、共有すれば、少しは楽になるはずだ」

もう一度蘭丸の目を見る。綺麗な色をしているなと、何度見てもそう思える瞳が、しっかりと自分の顔を見据えていた。
神童は目を逸らすまいと決めて、息を吸った。

「これ以上、迷惑をかけたくない」
「何言ってるんだよ。大事な友達が悩んでて、辛くて、苦しんでたら、それを分かち合うことが迷惑だって、お前本気でそう思ってるのか?」
「霧野に辛い思いをさせたくないんだ、わかってくれ」
「わからない!結局今だって辛いんだ。倒れた瞬間なんて、もう心配で心配でたまらなくなる。お前が倒れる度に、このまま二度と目を覚まさなかったらって…。こっちの気持ちを知らないから、そういうことをお前は平気で言えるんだ!」
「霧野、お前…」
「うるさい見るな!!」

涙がぽろぽろと零れる瞳はいっそう綺麗に見えるのに、泣いている霧野にただ神童の胸は痛んだ。
気が付かなかった。心配をかけまいとすることで、かけてしまう心配があることを。
傷つけまいと思うことで傷つけてしまうことを。
それなら、それなら一人で抱え込むのは馬鹿みたいだ。どうせ二人とも痛いのなら、共有してしまえばいい。

「…悪い、怒鳴ったりして」

目を伏せてぽつりと呟いた霧野を抱きしめて、耳元でそっと恐怖を打ち明ければ、霧野は濡れた瞳を閉じた。目を閉じたせいでまた新たに溢れた涙が頬を伝う。神童はそれを舌で掬い、そのまま唇を重ねた。
これから行く先に見えている暗雲から目をそらすように、逃げるように、ただひたすら恐怖を打ち消す為に。

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