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□姉妹
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大きな声を出してたくさん汗をかいて一生懸命練習しているみんなの姿を見ていると、やっぱりサッカーは良いなあ、なんてことを改めて考えてしまったりする。

「さ、私たちは仕事仕事!」
「仕事?」

そういえば自分はマネージャーなんだった。ただぼーっと観戦していて良いわけがない。
木野さんはハッとしたような顔をして、ぎこちない笑みを浮かべた。

「もしかして冬花ちゃん、マネージャー経験ない…?」
「はい」

前の学校にいた時は文化系の部活に入っていたから、マネージャーの仕事なんてわからない。
やっぱり事前に調べておくべきだったのかもしれない。

「あの、ごめんなさい。でも、これから一生懸命頑張るので…!」
「あ、全然気にしないで大丈夫だから。大変かもしれないけど、三人で頑張ろうね」

木野さんは優しく微笑んでくれた。優しい人でよかった。それで結局、マネージャーって何をするんだろう。

「お兄ちゃん頑張ってー!!」
「春奈ちゃん、そろそろ」
「あっ、す、すみません!!つい夢中になっちゃって!」
「じゃあ私は洗濯してるから、二人は買い出しお願いね」

木野さんの書いた買い物メモを持った音無さんと学校を出る。なんだか少し不思議な気分だった。
マネージャーは買い物もするんだ。
そういえばさっき、音無さんはお兄ちゃんって言ってなかったっけ。
きっとあの中にお兄ちゃんがいるんだ。でも、音無なんて苗字の選手はいなかったような気がする。まだ全員覚えてないけど。

「音無さん、お兄ちゃんって…」
「マントとゴーグルしてる人、私のお兄ちゃんなんです!すっごく優しくて、カッコイイんですよ!」

あれ、それってBチームのキャプテンの。

「鬼道有人」
「あ、そうです!それがお兄ちゃんです!」

苗字のこと、聞かない方がいいのかな。何か深い事情があるのかもしれないし。

「お兄ちゃん、羨ましいな」
「えへへ、あげませんよ〜」

私達は無事買い物を終えて学校に戻った。みんなのお昼ご飯を作って、それから休憩。
音無さんはずっと鬼道さんの方を見ていて、お兄ちゃんのことがすごく好きだっていうのがよくわかった。
鬼道さんも時々こっちを見て口を吊り上げる。ゴーグルで表情はハッキリとはわからないけど、多分笑っているんだと思う。

「冬花ちゃんは、ご兄弟は?」
「いません。ひとりっこです」
「そっかあ。私もなんだけどね、春奈ちゃんと鬼道くん見てると、兄弟もいいなって思っちゃうわよね」
「そうですね」


秋さんや春奈さんのことを姉や妹のようだと感じ始めたのは、世界大会が始まる少し前くらいのことだった。

兄弟はいなくても、私は二人に会えただけで良かった。

そう伝えられる日が、いつか来るだろうか。

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