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□痛みと共に
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情けないなあ。せっかくここまで来たのに、怪我しちゃって。
怪我をしてしまった時。すごく悔しくて悔しくて、だから意地を張ってあの試合を最後まで見届けた。
あのままベンチにいたら怪我が悪化するのはわかっていたけど、怪我をしたときに漠然と感じた。
僕は、きっと次の試合に出れないって。
気付いてから泣きそうになったけど、みんな辛い中で必死に戦ってるのに、弱音をはいたら駄目だって自分に言い聞かせて、耐えた。
でも、試合が終わってからはそんな気持ちはどこかにいってしまって、この試合に勝てたこと、みんなを世界に送り出せたことだけが胸を埋めていて、本当に嬉しかった。
だから、お医者さんに治療してもらっている間も、興奮していた。
松葉杖をもらって、病院を出たときも鼻歌なんか歌ってた気がする。
そこに染岡くんがいることに気付くまでは。
「吹雪!」
「染岡くん!」
ここのところ練習漬けで、メールのやり取りも疎かになっていたから、久しぶりに会えて本当に嬉しかった。
元気そうだね、と声をかけようと思ったけど、今の僕がそんなことを言ったら皮肉に聞こえるかもしれないと思ってやめた。
「どうしてここに?まさかどこか悪いんじゃ…」
「違えよ!…いや、その、吹雪!!」
「なあに?」
「怪我なんかしてんじゃねえよ!!俺、お前とワイバーンブリザードよりもっとスゲエやつを世界でぶっ放してやろうと思ってたのによお!!」
そう言ってから、染岡くんは頭をかいた。
「代表メンバーに入れたのは嬉しいけどさ、お前と一緒じゃなきゃ意味ないんだよ」
「それを言う為にわざわざ来てくれたの?」
「悪いかよ」
「ううん、ありがとう」
染岡くんは笑って、僕の頭に手を乗せた。
「早く怪我治して世界に来いよ」
「うん」
僕は何となく、この病院の屋上で染岡くんに励まされた時を思い出していた。
ありがとう、よりも、今は早くこの怪我を治して世界に行くことが染岡くんへの、僕を支えてくれた人達へのお礼になるはずだ。
僕は、絶対に怪我を治して戻ってみせるよ。
だからアツヤ、見守ってて。