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□瞬過終逃
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桜の花びらが絨毯のように敷き詰められている土手のふもと。風に吹かれて落ちている花びらまでもが飛んでいくのは、見ていて飽きるものではなかった。空を飛ぶ絨毯のようだ。幼心にそう思い、アラビアンな彼をぼんやりと頭に思い浮かべた。
彼ならジュンが木から落ちても、絨毯で受け止めてくれるだろう。
桜の木をぐいぐいと登っていくジュンを見ているのは、ハラハラするけれども、いつもの数倍ジュンが頼もしく見えて。

「がんばれー!」

声をかければ手を振り返してくれた。
ぶわっと強い風が吹いて、木がざわざわと揺れる。桜の花びらが舞う。
ジュンは桜の花に手を伸ばしているところだった。綺麗だ。たくさんの薄いピンク色の中に、ジュンの髪の色が見えるのは、なぜだかすごく綺麗だった。
ジュンはとんっと木から降りると、取ってきた桜の花をいくつか渡してくれた。普段横暴な分、優しさが身に染みて。

「ジュン、かっこいい」
「気付くの遅い!」

笑いながら桜の花びらを集めた春は、もうやって来ない。
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