Story
□花火
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部屋掃除をしていたら、ずいぶん前に買った花火が机の引き出しの奥から出てきた。
---確か、買ったのは去年の7月の終わりだっけ。
そんな事を思い、それを机の上へ乗せた。
「先輩。」
部活も引退した初秋。先生と一対一の補習を終え、三年の静かな廊下を歩いていると、後から声がした。
「ちょっと、いいですか?」
すっかり会わなくなった。同じ校舎でもすれちがう事も少なくなった。メールも出来ずに関わりが少なくなった後輩、恋人。
「おー。久し振り、赤也。」
振り返り、笑顔を見せるが、赤也は不満そうな顔をしていた。
「どうした?そんな顔して。」
理由は分かってる。それ前提で聞く自分は最悪だな。と、頭の隅で思った。
「…今夜、空いてますか?」
一、二ヶ月一切関わりなしの相手にそんな事を言うもんだから、少し、驚いた。メールの返事をしてない事とか言われると思ったのに。
「…一応、空いてるけど俺ん家は無理だよ。」
「平気です。俺の家が誰もいないんで。」
そのやりとりがなんか、妙に虚しかった。俺達はもうそんなしらけた関係になってしまったのかと。
「じゃあ、俺部活あるんで。7時に公園で。」
それだけ言って、最後に優しく笑って赤也は足早にその場を去った。
「ただいまー。」
まだ誰もいない家に自分の声が響いた。部屋に入ると机の上に置きっぱなしの花火があった。
そうだ。と、その花火を手に取った。
7時前、親の許可を取って今夜の時間を空けた。辺りはすでに暗くなっていた。蛍光灯の下で赤也を待つ。
「先ぱーい!」
遠くから声がしてそちらを向くと、赤也が走って来ていた。
「へへっ。何かこういうの久し振りッスね。」
息を荒げながら懐かしい笑顔をブン太へ向ける。ブン太も笑い、赤也の側へ歩み寄る。
「あれっ…先輩、何持ってんですか?」
「ああ、これ?花火。」
持ち上げて赤也に見せる。
「花火!?」
「うん。せっかくだからやろーと思って。」
「別にいいけど…風引かないで下さいね?」
心配そうに覗いてくるその顔に一発でこピンをした。
「心配すんなって。平気だから。」
でこを抑えて涙目になってる赤也の腕を引っ張って公園に入った。
しゃがみ込み、花火を二本出して一本を赤也に手渡した。
自分の持っている花火にライターを近づけるが、何の反応もない。
「…先輩、一応聞いときますが、これ、いつ買いました?」
「んー。去年の7月の最後くらいだっけ?」
「はぁ!?しけてるに決まってるじゃん!」
「やっぱりー?あーあ。残念。」
赤也から一本取り上げて近くのゴミ箱にバサッと、花火を丸ごと捨てた。
悲しそうな表情に気付いたのか、赤也がこんな事を言ってくれた。
「今からコンビニに買いに行く?」
すごい勢いで顔を上げると、俺の目を見て「決まりッスね。」と言った。
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