短編
□ロウソクに灯った優しさ
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9月4日。
夜の街を、近藤は一人歩いていた。
+ロウソクに灯った優しさ+
「あら、ゴリラさん。来てたんですか?」
「お妙さん!はいッ、もう数時間前からここにいましたァ」
すでにフラフラに酔ったゴリラさんは、私の姿が見えるなり大声で叫んだ。
「そうですか。私てっきり、動物
園から逃げ出してきたゴリラがいるんだと思ってました」
「滅相も無い。お妙さんは上手いですね」
「そんなに褒めても、サービスしませんよ」
「そーですよね。アハハ」
ホントに。
お気楽な人。
「それより、ゴリラさん今日誕生日なんですってね?」
私がそう言ったら、ゴリラさんの目が勢いよく輝きだした。
「覚えていてくれたんですかっ? お妙さん」
「えぇ。小耳に挟んだものですから」
私は言って、ある物を取り出した。
「これ。よかったら貰ってください」
丁寧に包まれた、小さな箱。
「も、もしかして……プレゼントですか!」
「そうですよ」
箱の中には、
自信作(真っ黒い何か)の上に、綺麗な色(真っ赤な何か)で『ゴリラさんへ』と書かれた物が入っている。
「こ、これは?」
「玉子焼きですよ」
一体、何に見えたんですか?
って、ゴリラさんに聞いたら、
「勿論、玉子焼きです!」
そう返って来た。
面白い人ね。
そんなに、私の気を引きたいのですか?
「ありがとうございますっ、お妙さん!」
ホントにもう。
今日だけですからね。
優しくするのは。
「ハッピーバースディ」
近藤さん。
fin.