イベント小説

□悪戯な魔法の言葉
1ページ/1ページ


トリック オア トリート。


悪戯な魔法の言葉。





+悪戯な魔法の言葉+





その日の夜。


総悟は不気味な格好をして、土方の部屋に訪れた。


全身を真っ黒い布で覆い、頭に不釣合いな大きな帽子。


その手には藁人形が握られている。


二回の戸を叩いた後、中から返事があったのを確認して戸を開ける。


そして、総悟の登場に目を見開く土方に悪戯な魔法の言葉を囁いた。


「――トリック オア トリート」



静まり返った部屋。


土方は一つ溜め息を吐くと、少し待っとけと言い置いて机に戻った。


机の下に予め用意しておいた箱に手を入れる。


その手が紙袋を掴んで、再び総悟の前にやってきた。


「ほらよ。最後の一個だ」


屯所では毎年この日になると、


仕事が終わった隊士たちから上司にお菓子をせがみにくる。


今年も例外ではない。


土方は満足そうに総悟の手にお菓子を握らすと、寝る準備を始めた。


時計の針はもうすぐ今日を終わろうとしている。


「総悟も早く寝ろよ」


布団を敷き終わって電気を消そうとしたのを、総悟の言葉が止めた。


二度目の、悪戯な魔法の言葉。


「――トリック オア トリート」


「は?今さっきお菓子やっただろォ」


「トリック オア トリート」


今まで微動だにしなかった総悟は、勢い良く土方に詰め寄った。


「総…」


「トリック オア トリート。


―――――あんたをくれねェと、悪戯しやすぜ」


「なにっ」


妖しく笑い、そのまま土方を敷かれたばかりの布団に押し倒した。


状況が掴めない土方は、ただ総悟の瞳を見つめる。


「なんのつもりだ、総悟ォ」


「お菓子ごときで喜ぶ子供はいやせん。


俺には特別に、土方さんを下せィ」


「んだとォォっ」


「大きい声ださねェでくれィ。隊士が起きちまいまさァ」


纏(まと)っていた布を解き、土方の口に突っ込む。


先程まで響いていた声が、次にはくぐもった声に変わった。


「…んん…ん…っ……」


「大人しくしてたら酷くしやせん。


悪戯はするかもしれねェけど…」


「……んんん……ん…―――んっ」


優しく額にキスを落とし、着流しの紐を解いていく。


「日が変わる前に、全身を食べきれやすかねィ」


「――ん…んん…………っ!!」



部屋の時計は、午後十時四十六分を差していた。




fin.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ