お題
□11.儚い宝石 /後
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「大変です、副長!隊長を襲った男の死体が、今朝発見されました」
「何っ!」
その知らせを受けたのは、総悟が襲われた次の日のことだった。
+儚い宝石 /後+
「ひじかたしゃん。これでいいでしゅかィ?」
そう言って俺の部屋に来た総悟は、昔着ていた小さな袴と衣を着込んでいた。
昨日の晩、俺が屯所の中を必死に探して見つけ出した物だ。
「あぁ、ピッタリだな」
「にしても、しゅみがわりゅいでっしゃァ。いつまでも、ガキのころのきものもってるなんて」
「今はそのおかげで助かってんだから文句言うな」
「……」
総悟が、むすっと俺を睨む。
その顔に俺は目を奪われていた。
「なにみてるんでィ」
「っ」
そう言われて、俺は我にかえる。
何やってんだ、俺っ。
にしても、総悟ってこんなに可愛かったっけ……
って、また俺ェ。一体どうしちまったんだァァ。
「ひじかたしゃん」
しゃんって、しゃんって。
今気づいたが、しゃんってなんだよ。
反則だ。
「だいじょうぶでしゅかィ。…っぁ」
心配して近づいてくる総悟が、バタンと、俺の目の前でこけた。
「っ…あるきにくいきものでしゃァ」
起き上がり、袴の裾を手で少しあげ、足踏みする総悟。
その仕草に、俺の何かが飛んでいった。
「総悟ォ」
「ぅわっ、ひじかたしゃん」
今までこんなに総悟を可愛いと思ったこと、あっただろうか?
俺は思わず、総悟に抱きついた。
いや、小さくなくとも、総悟は十分可愛かった。
小さくなったから素直さが増して、やっと気づいただけだ。
「好きだァ」
「へィ?」
「俺は総悟が…」
「は、はなしてくだしぇィ」
総悟が俺の腕の中で、ジタバタと暴れる。
が、それはすぐに大人しくなった。
「……総悟?」
「ずるいでしゃァ…」
俯いて、総悟が言う。
「なっ?」
「おれがこんなすがたのときに、そんなこというなんて……」
一拍置いて、総悟が俺の顔に自分の顔を近づける。
「っそ」
そのまま、総悟の唇が俺の口を塞いだ。
一瞬の事で、頭が混乱する。
総悟は唇を離すと、寂しそうな目で俺を見上げた。
「…おれだって、ひじかたしゃんのことがしゅきでしゃァ。
でも、こんなしゅがただから……いいことひとつできねェ」
「いい事って……たく、頭ん中は変わねェな」
俺が苦笑いを浮かべると、総悟は勢いよく俺の隊服を掴んで揺さぶった。
「わらいごとじゃないでしゃァっ。おれ、ほんとに……」
「総悟……。もう、わかったから」
「早く、元に戻りたいでしゃァ……」
今度は一気に勢いが無くなり、総悟がまた俯く。
「…あのやろォ、いったいどこにいったんでしゃァ」
その言葉に、俺はある事を思い出した。
「っ!…それなんだがな、総悟。お前を襲った犯人、今朝死体で見つかったそうだ」
「なっ、ほんとうでしゅかィ」
「あぁ…」
総悟の肩が小さく震える。
「…じゃァ、どうやってもとにもどるんでィ」
「………っ。俺が、俺がなんとかする」
「でも、はんにんはしんだって…っ」
「俺が、何とかするっ」
そしてもう一度、総悟を抱きしめた。
「何とか、俺が元に戻すからっ」
「ひじかたしゃん…」
「だから…」
と、その時。
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