短編

□あかずきん
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昔むかし。


ある村に、可愛らしい女の子がいました。


艶やかな栗色の髪に赤い瞳。


女の子は誰からも好かれ、


特におばあさんからはそれはそれは可愛がられていました。


女の子は、そんなおばあさんが大好きです。


だからいつも、おばあさんに貰った赤いずきんを被っています。


そのせいで、周りの人から『赤ずきん』と呼ばれるようになりました。



その日。


お母さんは、赤ずきんに言いました。


「ばあさんが病気になったみたいだから、


森の奥のばあさんの家に酒と菓子を持って行ってくれねェか?」


「嫌でさァ」


「即答…」


赤ずきんは、皆が思っているほどいい子じゃありません。


「お前が行けよ、ばばあ」


おまけに口が悪い女の子です。


外見だけなら…と、ナレーションは溜め息を吐きました。


「赤ずきん。わがままを言うんじゃねェ」


赤ずきんの口の悪さは、親が原因でした。


「さっさと行って来い」


「しょうがねェなァ…そこまで言うなら行ってきやす」


「これ酒と菓子な。あと、寄り道はすんなよ」


「わかってまさァ」


そう言って、赤ずきんはおばあさんの家に向かいました。



しばらく森の中を歩いていると、前から一匹の狼が出てきました。


狼は赤ずきんにどこ行くかを尋ねます。


赤ずきんは狼のことを知らないので答えました。


「森の奥のばあちゃん家に看(み)まいに行くんでさァ」


それを聞いた狼は、赤ずきんから顔を逸らし微笑みました。


悪い獣です。


狼はおばあさんと赤ずきんを食べようと考えました。


そして、


赤ずきんに向こうに花畑があることを教え、その場を去りました。


「…って狼似合いまさァ」


赤ずきんは関係ない台詞を呟き、教えてもらった花畑に向かいました。


「ばあちゃん、待ってて下せィ。


可愛い孫が手ェいっぱいに彼岸花摘んで、看まいに行ってあげまさァ」


なんとドエスな赤ずきんでしょう。


とても楽しそうに花を摘んだ後、赤ずきんは立ち上がりました。



さぁ。


あばあさんの家に着きました。


「ばあちゃん。赤ずきんでさァ」


暫くすると中から霞(かす)んだ声が聞こえました。


「鍵があいているからお入りィ」


赤ずきんは中に入ると、ベットに近づきました。


そして、おばあさんの異変に気付きました。


おばあさんは、ずきんを深く被って寝ています。


それも苦しそうに。


「ばあちゃん。ばあちゃんの耳は、なんでそんなにデカいんでさァ?」


「それは、お前の声がァよく聞こえるためさァ」


「ばあちゃん。ばあちゃんの目は、なんでそんなにデカいんでさァ?」


「それは、お前の姿がァ良く見えるためさァ」


「ばあちゃん。ばあちゃんの口は、なんでそんなにデカいんでさァ?」


「それは…、お前を食べるためだァよォ」


突然。


ベットの中から一匹の虎…違った…一匹の狼が飛び出しました。


そして驚く赤ずきんを丸呑みにしてしまいました。


「ごちそうさまァ」


狼はお腹いっぱいになって、再び眠りにつきました。



丁度その時。


一人の猟師が、おばあさんの家の前を通りかかりました。


「…あれ?おばあさん今日はどうしたんだ。


やけにいびきが大きい」


不思議に思った猟師が家に入ると、ベットの上に狼の姿を見つけて驚きました。


「これは…最近森を荒らしていた狼じゃないか」


猟師は鉄砲をかまえてから、あることに気付きました。


「待てよ。もしかしたらお腹の中におばあさんがいるかも。


今ならまだ生きてるかもしれないっ」


そう考えた猟師は、はさみを手にすると狼のお腹を切っていきました。


猟師の考えは的中。


お腹を切っていくにつれ、中から赤ずきんが。


そして次におばあさんが出てきました。


「助かりやした」


「ホント、ありがとなァ」


「いえいえ」


そして空になった狼のお腹の中に石を詰め、最後に縫い合わせました。


目を覚ました狼は、石の重さにそのまま死んでしまいました。



三人は大喜びです。


そのあと、


おばあさんは赤ずきんが持ってきた酒と菓子を食べ元気を取り戻し、


赤ずきんはこれからは寄り道しないでおこうと、心に誓いました。



めでたし…――



「そういや、ばあちゃん。俺、ばあちゃんの為に花摘んで来たんでさァ」


「ホントかァ!ありがとう、赤ずきん。


何十年の生きてきたが、こんなに嬉しい事は初めてだ」


うれし泣きしているおばあさんに彼岸花を渡すと、赤ずきんは家を出ました。


残されたおばあさんが、かなし涙を流したのはいうまでもない。



めでたしめでたし。




fin.
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