短編

□子供という名の大人の日
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土方さん


土方さん


当たり前のように座って能天気にも場所を譲らない形だけの副長の座を


一つ俺ァに下さいな



……―――。



+子供という名の大人の日+



「…で」


眉間にシワを寄せた土方さんは、俺を見ながら低く唸った。


「テメーの目的はなんだ…総悟」


「嫌でさァ。俺の目的はいつも言ってるじゃねェですかィ。


副長の座をよこしてついでに死ね土方」


バズーカ砲の先端を、土方さんの頭にくっつけたままの俺は、


大げさに溜め息を吐いた。


「それが人に対する物の頼み方かァァ」


「心配しねェでも、土方さんを人だと思ったことありやせん」


「死ね沖田」


「死ね土方」


俺と土方さんの目が合い、殺気に似た様なものが飛び交う。


不意に。


俺は土方さんに尋ねてみた。


「土方さん、今日何の日か知ってやすか?」


「今日って…五月五日。……あ」


なんでィ、その反応。


「もしかして忘れてやした?」


「あァ…」


五月五日。


年に一度の、俺の楽しみの一つ。


「こどもの日でさァ」


と、ついでに。


「仕方なく申し訳ねェ、土方さんの誕生日」


「仕方なく申し訳ねェ、は余計だろォォ!マジで殺すぞっ」


怒鳴ったせいで、土方さんの口から銜え煙草が地面に落ちる。


それを足で踏んで、見て分かるほど苛立ちながら俺を睨みつけた。


「しょーがねェ…こどもの日のついでに祝ってやりやすから、


お返しとして副長の座を下せィ」


「誰が頼んで祝ってもらうかっ」


副長の座はやれねェ。


新しい煙草に火を点けながら、そう吐く土方さん。


「頑固なやつでィ…」


しかたねェ。


こうなりゃ手段は選ばねェ。


強行突破でさァ。


「……土方さんは…、副長の座と俺とどっちが大事なんでィ」


「副長の座」


「ちっ」


目に涙を溜め迫真の演技のつもりだったが、結果を得る前に敗退。


ならば。


今あるこの立場をフルに活用してやるしかねェ。


「土方さん…」


「あァ?」


「しかたねェから、あんたごと副長の座を下せィ」


恋人という立場を利用して。


「テメ、何寝ぼけた事を……って」


俺は有無を言わさず、土方さんに覆いかぶさった。


「俺とあんたが一つになりゃ、副長の座も俺のもんでィ」


「んだとォォ!どきやがれっ」


「嫌でさァ。――大事なもんは、二人で分け合いやしょうや」


妖笑を浮かべ土方さんを見ると、見る見る間に顔を引きつらせていくのが分かる。


「ついでに、仕方なく申し訳ねェ土方さんの誕生日も祝ってやりまさァ」


耳元で囁いてやると、土方さんの顔に火が点る。


そんな顔されたら、嫌でも啼かせたくなるのがS魂でィ。



ギブ&テイクでさァ。


一年に一度のこの日を大切に祝ってやりやすから、


あんたも俺に対価を払って下せィ。



一方通行の愛は、絶対に御免でさァ。




fin.

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