東雲

□現代版グリム的ディノヒバ童話
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白墨と黒板が奏でる規則的な音楽に鉛とノートで参加する者もいれば、その調べに酔いしれ眠りを誘われる者もいる。また趣向が合わずに興味を削がれ、勝手に曲目を変更する者もいるだろうこの時間。しかし、どんな選択をしようとも【授業】という曲目から逃れられないことは変わらない事実だ。生徒という演奏者である以上、楽器選択は自由でもその大きな流れを持つ曲目への選択権はない。それが一般常識だ。それでも、その常識など構わずに自由な選択権を所持した演奏者がこの並盛中には存在している。
雲雀恭弥…帥いる風紀委員である。地区最強にして、町そのものを取り仕切る不良集団。実際のところは雲雀恭弥が自分尺度ではあるが風紀を乱す輩を許さないという風変わりな不良であり、その最強たる戦闘力と生まれついての統治的支配力を持って町に君臨している状態で、並盛中風紀委員は彼の部下として存在しているのだ。
これだけ聞くと、不良に支配されている荒廃した土地ととられかねないが、居心地はそれ程悪くはない。むしろ良好と言っていいだろう。不良にありがちな自分勝手な風紀であることは否めないが、雲雀恭弥の風紀は比較的一般的風紀の理に適うものだからだ。他地区と違う委員活動費という名の徴収は税金と思えば別段と不満になる程の額ではないし、風紀を乱した犯罪者への少々残酷過ぎる処罰も刑罰と思えば一般人に害はない。さらに言えば、彼は彼の風紀を守りさえすれば非常に寛容なのだ。各個人の意志、思想は自由な主義で、地区集会や人々の繋がりに関しても口出ししない。問題がないわけではないが、殊更に問題にすることもない。並盛地区の平和はそうやって守られている。
だからこそ彼の全ての選曲は自由でありながらにして、たった一曲なのだ。【風紀委員活動】という日誌のページを捲る音と学校内はもちろん、並盛地区を視察する足音。そして、風紀を正す残虐なまでの暴力が彼の曲目だ。彼の一日…否、生き方は風紀が中心となっている。彼自身それを不満になど感じたことはない。むしろ【群れを成すモノ】さえいなくなれば、充実したものだとさえ感じていた。
それでも傍から見える彼はいつだって何かが欠けていた。
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