黎明

□日常
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【万事屋銀ちゃん】

歌舞伎町にひっそりと佇む小さなスナックの二階にある店だ。仕事内容は【万事の解決】という不安定さ故、客の出入りは少ない。従業員はこれまた少なく三名。そのうち地味な眼鏡の薄幸オタク青年こと志村新八は実家へ、宇宙最強戦闘民族【夜兎】で食欲旺盛酢こんぶ娘こと神楽は巨体の愛犬こと定春と遊びに出かけている。今は最後の一人、一応リーダーで定期的に甘いモノを取らないとイライラしてしまうとかいう糖尿病寸前の、昔は攘夷の第一線で活躍したこともある銀髪天パ剣客の坂田銀時だけ。そして普段からダラダラしている銀時が二人がいない間に仕事をするわけもない。する事と言えば一つだけ。

「うわぁ、初ちゅーはレモンの味っていうか…マヨ?マジで減なりィ。同じ酸味でもドン引きってか?」

くくっと喉もとで笑いながら軽口をたたいてみせる。突然の口付けに困惑と軽蔑の思いを込め、家主の体を強く突き返す客人。そんな客人の初々しいとも言える恥じらいをからかうように笑う。実際、可愛くて仕方がないらしい。
ここまでの様子で十分お気付きになるだろう。銀時が一人になるとする事。それは恋人を自分の城に招く事。
ついでを言えば、キスは初めてではない。キス魔でサドの気がある銀時は何度も何度もキスをしてもその度に頬を染め上げる恋人、土方十四郎をからかうのが好きだった。

「暴れんなよ。ヅラでもこういう時は(レモン味なのは初恋だ)くらいのツッコミはするぞ?」
「っっっ!てめェはやっぱり攘夷浪士と、桂と組んでやがるのかっ?!公務執行妨害及び反幕運動加担、補助の罪状でその首もらい受け…」

銀髪の男は抜刀しかけた土方の体を楽々と倒すと、先程までの飄々とした様子の一切を斬り落とした、凍てつく表情を笑顔でして見せた。

「 …俺の傍にいる時くらい他の野郎の話はすんな。」

月のような銀色の瞳が土方の闇色の瞳を支配する。数秒の間見つめあった後、怯える土方に満足したように、いつもと変わらない笑顔をへらりと浮かべる。

「それよりさ、二度目のちゅーってなんて言うんだろうな?」
「し、知るかァァァァァ!てめェは絶対叩っ斬…」

急に普通りの様子を取り戻した銀時を思わず怒鳴りつけずにはいられなくなる。土方が短気にも再度抜刀しかけた時、至極楽し気な声と共にどすどすと足音がやって来た。
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